[コメント] 木と市長と文化会館 または七つの偶然(1992/仏)
次に田舎の都市の市長(村長ぐらいに見える)ジュリアン−パスカル・グレゴリーと恋人の(作家でもある)ベレニス−アリエル・ドンバール。そして「未来」誌という雑誌の記者ブランディーヌ−クレマンティーヌ・アムルー。主要人物と云えるのは、この4人ぐらいだろう。強いてあげれば「未来」誌の編集長−フランソワ・マリー・バニエと、教師の娘・ゾエ及び市長の娘ヴェガを加えてもいい。というか、演者として主要人物と云うべきかは疑問だが、とりわけ、教師の娘・ゾエは重要な役割を担う存在だ。この子がプロットを完全に転回させてしまう。また、この子の達者な科白回しが全編のハイライトでもある。
冒頭の小学校の場面がプロローグで、以降、第1章から7章まで、章題のようなインタータイトルが挿入される。章題は全て「もし〜しなかったら」という文で統一されている。1章から3章は市長ジュリアンとベレニスのパートで、政治信条や邸宅での生活ぶり(広大な敷地の紹介)、文化会館の建設計画などが描かれる(教師マルクの建設計画に対する怒りの様子も)。この前半はジュリアンが中心にいるので、彼が主人公だと思わせられるが、第4章で、記者ブランディーヌが登場し、プロットはギアシフトしたかのように、彼女が主役になる。すなわち記者ブランディーヌがジュリアンやベレニスと会話し、さらに文化会館の建設に関して地元の人々にインタビューする様子が綴られる。その中に、教師のマルクもいるという構成だ(5章以降の展開については割愛します)。
画面造型はいつものロメールと云えばそうなのだが、いつも以上にそっけない、なんかいきなりカメラを回し始めたような撮り方に見える。ただし、主要人物4人の会話シーンはしっかりとした切り返しで(都度、照明も調整されて)描かれる。また小さなズームをよく使う。これはちょっとホン・サンスに似ていなくもない使い方だ。これらそっけない撮り方もズームの活用も、インタビューシーンのドキュメンタリータッチのルックに合わせたもののようにも感じられる。中盤のブランディーヌが村人たちをインタビューするショットは、ツーショットの長回し主体で(切り返したりしないで)、小さなズームを多用する。
また、ベレニス役のドンバールは『海辺のポーリーヌ』や『季節のはざまで』でもセクシー担当だったが、本作の普通の会話シーンでもどうしてもその肢体に目が行ってしまうし、女性記者役クレマンティーヌ・アムルーという人は他の出演作を知らないが、知的な美しさをたたえており、やはり、画面を見る興趣が持続する存在だ。さらにラストは、マルク、ジュリアン、ベレニスの3人が順次歌唱する、というミュージカルになる。これはギャグのような趣向だろうが、サービス精神でもある。やっぱりロメールは面白い。
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