[コメント] 戦争と人間 第3部・完結編(1973/日)
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完結編となる本作は日中戦争の開始から太平洋戦争へとなだれ込む日本を背景に、財閥の兄弟たちのそれぞれの歩みを描いていく。
この兄弟のそれぞれの立ち位置が良くて、彼らそれぞれの正義という観点で見ると、この三部作を通してそれぞれが一貫している。
次期家長となる長男の英介は、家の存続こそが自分の使命であり、それこそが彼にとっての正義だった。その正義のために犠牲にすべきものは次々に犠牲にしつつ、軍や政府を相手に駆け引きを続けていく。
次男の俊介は、戦争はいけないことであり、人は分かり合えるという思いを持っている。言うなれば彼は現代人の代弁者だが、そんな青臭い正義が戦争という現実の前に打ち砕かれつつ、それでも自分の思いを捨てない。
長女の由紀子に関しては、いかにも財閥の長女としての役割が与えられる。好きな人はいても、家長の命令には唯々諾々と従う。自分の意思より家の方を優先することこそが正義である。
次女の順子はそんな由紀子の生き方に反発し、自分が選んだ好きな人についていき、彼を助けつつ生活をして、彼が戦争に連れ去られた後は最後は一人自立して生きようとする。女は自分の意思を持って生きていく事を正義としていく。
四者四様の正義感はぶつかり合いつつ、時代に向かって行くのだが、全員の正義感はやがて戦争の波に呑まれて打ち砕かれていく。理想論が勝つわけでもなければ現実論が勝つ訳でもない。ただ戦争という現実はあらゆるものを粉砕するという事実を冷徹に描く。
しかし、その冷徹さがあるからこそ、観ている側としては、今生きている時代は本当にありがたいとしみじみ思うだろうし、平和に向かいたいという思いが募る。はっきり言えば、戦争というものを冷静に描けば、それだけでれっきとした反戦映画になるのだ。山本監督はそのことを本当に良く理解しているからこそ、エンターテインメントと反戦を見事に結び合わせることが出来たと言える。
本作をそう言う具合に人間ドラマとして観るのも正しい観方だが、でも本作の最大の見所はスペクタクルである。ここで描かれるノモンハンの戦いの迫力たるや。ビデオで観てもその迫力は見て取れるけど、これが劇場だったら、どんだけ眼前に迫ってくることやら。
尚、ここでのノモンハン事件の描写はソ連軍の全面協力という、普通あり得ない強力な助っ人のお陰だそうである。だから使用されている戦車は本物(中には現用の戦車であるT-34-85が使用されていたとか。私には区別つかなかったが)。流石の迫力である。
終わり方が少々中途半端な感じもするが、その虚しさが逆に「これで良い」という思いにもさせられる。堂々たる大作である。
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