[コメント] その男ゾルバ(1964/米=ギリシャ)
映画を見終った人むけのレビューです。
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本作はアンソニー=クインの魅力というものを遺憾なく発揮してる。
このゾルバという人物、同じくクインが演じた『道』のザンパノと結構似てる部分が多い。恐らく監督もそれを意識したのだろうが、大きく違うところもある。
この二人は共に女好きで強い意志力を持った男性として描かれるが、ザンパノは徹底して陰の部分を強調していたのに対し、ゾルバは陽を強調してる。人間誰しも心の中に陰と陽どちらも持ってるものだが、この二つを見事に演じ分けられたクインは流石に実力がある。
ところで、ザンパノは陰、ゾルバは陽と言ったけど、よく考えてみると、全く逆に考えることも出来る。ザンパノはひたすら自分の都合の良いことだけを考えて生きているので、社会的に見る限り、悪人だが、これほど素直に生きている人間はいない。むしろ心は陽性なのだ。一方このゾルバはかつて戦争で激しい心の傷を負った事がある。バジルのからかいに似た愛国心の話を、極めて苦々しい表情をして聞いていたのが印象的。彼は心に激しい良心の呵責を覚え続けており、だからこそ、分け隔てなく人に優しくしようとしていたのかもしれない。彼には差別の心がないが、それは彼の中で激しい葛藤を経た上で初めて得られたものなのかもしれない。彼の心は極めて陰に近い。
…尤も、人に優しいからと言って、それはあくまでゾルバ流の優しさであり、ずかずかと人の心に土足で入り込むような態度に、時に周りの人間はそれをお節介と受け取ることもあろうし、鬱陶しい人間と思われることもあろう。更に逆にそこまでお節介を焼きながら自分のことについては語らないゾルバを「冷たい」と思うかも知れない。しかしそれを全部ひっくるめてがゾルバという人間の魅力となっている。
それだけじゃない。ここに真面目な男バジルを登場させることによって、ゾルバの魅力が増してる。脇役を主人公とすることで、主役を際だたせる巧い作り方をしてる。
物語はバジルとゾルバの二人の友情物語が主軸となって展開しているのだが、それを取り巻く環境は本当に殺伐としている。よそ者はあくまでよそ者であり、決して仲間に加えようともせず、自分たちの共同体の論理を守るためには人殺しさえも正当化してしまう。使者に鞭打つことも敢えてやってのける田舎の人間の姿がこれでもか!と言うほどにリアルに突きつけられ、それに従うしかないゾルバとバジル。その中で作られていく友情。これはなかなか凄いよ。
それまで机に向かって生活するばかりだったバジルが、ゾルバから与えられたものは、ゾルバが奪ってしまったものよりも大きかったのかも知れない。だからこそ、最後のダンスシーンが映える。
最初から最後まで、決して明るくならない物語が、救われたような気分にさせてくれる。
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