[コメント] 処女の泉(1960/スウェーデン)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
憎しみと罪
順序は逆ですが、まずカーリンを殺した兄弟から.彼らは単に悪い、誰がどう考えても悪いやつらということで考えるものはない.けれども一番下の子供は、何も悪くなかった.彼には罪はありません.
インゲリ.彼女はカーリンを憎んでいました.これは彼女自身がそう言っていることです.憎しみと罪の絡みで考えてみると、彼女の罪はカーリンが襲われるのを見ていながら、憎しみから救うのを躊躇ったことにあります.これも、彼女自身が父親に告白することであり、描かれたとおりと言えます.
そして、この点で付け加えれば、彼女はカーリンに不幸が訪れるように、悪魔か何かに祈ったみたいですが、まともな人ならその所為でカーリンが強姦に襲われたとは考えないはず.当たり前のことですが宗教は関係ありません.いくら憎い相手であっても、襲われ殺されるのを、観てみぬ振りをしたのは許されない.インゲリの、憎しみと罪の絡みは、これでよいでしょうか.
父親.法治国家では復讐は許されない事かもしれませんが、時代背景は犯罪者を裁く法律その他が整っていない頃の事、法治国家ではないのですから、復讐という行為が良い事か悪いことか、この点は考えないことにします.カーリンを殺した兄弟二人は、この場合復讐によって殺されても仕方がない、罪が罰せられたのだとしておきます.書き加えれば、父親は兄弟二人に対して一人で立ち向かった.身を清め彼自身が死ぬ覚悟で立ち向かったと考えて良く、卑怯なものは何もありません.
問題は一番下の幼い子供まで殺してしまったことにあります.食事中の様子とか、上の二人からこの子が殴られていた事とかから、皆にもこの子に罪がないのは分かったはずであり、事実、母親はこの子をかばいました.なのに父親は衝動的にこの子まで投げ殺してしまったのです.この行為は復讐ではなく、単に憎しみの所為に他なりません.憎しみから罪のないものを殺してしまった、ここに罪があると言えます.
信仰と罪.
インゲリはカーリンに不幸が訪れるように悪魔に祈りましたが、決してその所為であの兄弟に襲われ殺されたのでなく、父親もそんな事は分かっているから、インゲリの告白を聞いてそれ以上に責めることはありませんでした.神様に(悪魔に)お願いしても現実に罪を犯すことはできません.(人の不幸を願うことは心の中であってもいけないことですが) インゲリは悪魔に祈って罪を犯したのではなく、襲われるカーリンを憎しみから見殺しにしたことに罪があり、そしてその罪は「自分が悪い.あの兄弟は悪くはない」と父親に告白することによって、許されるものがあったと思われます.
さて、父親の場合は.非常に信神深い一家でなのですが、彼は殺人を犯しました.憎しみから罪を犯したのは、インゲリも父親も、違いはありません.そしてインゲリが信仰心で罪を犯したのでないのと同様に、信仰深い父親ではあるのですが、信仰によって罪が許されることはないと言えます.
「あの兄弟は悪くない.自分を殺して欲しい」.あの兄弟を憎しみから殺すつもりなら、カーリンを憎んでいた私を殺して欲しい.インゲリのこの言葉は正しく自分の罪を悔いていました.自分の罪を認めることによって罪は許されると言ってよいでしょうか.父親は天に向かって「私には分からない」と言いました.彼は善悪の判断なく一番下の弟を殺してしまいました.分からないと言うことは、「おまえは悪人だ」と言われても反論できない、反論しないことであり、この言葉は、私は悪いことをしましたと認めたと言えます.
もう一度まとめておきましょう.人は憎しみから罪を犯すのであり、信仰から罪を犯すのでなければ、信仰によって罪が許されるものでもない.自分の犯した罪を認めることによって許されるものがる.
父親は実際に殺人を犯しましたが、インゲリは何もしていません.それでもインゲリに罪があるのは幾度も書いたとおり、カーリンの死に対して重い罪があります.この事実から、人を憎むこと、その心には実際に犯罪を犯す以前に罪があると言えます.人を憎む心を悔いること、そこに許されるものがある、こんこんと湧き出す泉は、こう語っているのだとしておきましょう.
なんとなく私まで宗教臭くなった気がするので、もう少し書き加えましょう.心の中で憎しみを抱いただけのインゲリが悪ならば、それに加えて実際に殺人を犯した父親は、もっと悪と言わなければなりません.それは神様が居ようが居まいが同じことです.
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。