[コメント] 新Mr.Boo! アヒルの警備保障(1981/香港)
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チョンボは豪華客船の警備中に、密航してきた難民の一家と出会う。豪華客船で豪華にパーティーやってる富裕層とその船に忍びこむ飢えた難民一家の対比はマイケル・ホイ版『天国と地獄』だ。これをマイケル・ホイは、中間層やや低めの警備員の視点から描いてみせる。
隠れていた難民一家の少女に一目惚れしたチョンボは、妄想癖のある男だ。スーパーマンになってこの娘を救いたいと願うチョンボは、空を飛びながら少女に鳥肉を差し出す。夢の中の少女は大喜びで食べてくれる。この妄想は、あまりにもストレートで純粋だ。彼の思いが純粋なのは勿論だが、しょぼすぎる夜空のセットと2人に風を当てる送風機の力弱さがチョンボの妄想のつたなさ、稚拙さを想起させ、きっとチョンボじゃ彼女を救うことはできないだろうと思わせる。あの少女を救えるような甲斐性のある男なら、きっとあんな子供じみた夢想はしないんだ。
広川太一郎の吹き替えで名高いカニミソの場面では、難民一家の存在を隠そうとするチョンボの悪戦苦闘が描かれる。ギプス腕でカニミソをむさぼるマイケル、食料を求める難民の子供の手、彼らを懸命に隠そうとするチョンボの奮戦。これは笑わずにはいられないと同時に泣きたくなるほど胸を打つ、本当に素晴らしい場面だった。ああ、オレはこういう瞬間に出会いたくて映画を観ているんだと思わせてくれる場面だ。オレは今でも『アヒルの警備保障』といえばこのカニミソの場面を思い出す。
マイケルとサムが口裏を合わせてくれたおかげで、少女の一家は無事に香港に入れた。しかし幸せは続かない。現実は残酷だ。5万ドルが必要になった少女は、金持ちに体を売ろうとする。現場に押し入ったチョンボのセリフ、「オレに金があったらすぐあげる。でも文無しなんだ。一文無しなんだ」。惚れているだけでは、この娘は救えない。
銀行強盗から取り戻した現金から、チョンボは5万ドルを抜いてしまう。そして少女を人質に取られたチョンボは、国宝泥棒団に協力させられる。そのために危機に陥るマイケルとサムの奮闘、抱腹絶倒の大冒険の果てに、『アヒルの警備保障』はびっくりするほど幸せな結末を迎える。
失われた5万ドルは、マイケルの勤続15年ボーナスで補われた。イヤミと小言ばかり言っていた隊長マイケルは、この一件に関してはただの一言もチョンボを責めない。ヘマばかりし、銀行の金を盗み、泥棒に協力させられたチョンボ、人生メチャクチャになっても仕方ないほどボロボロのチョンボの罪は仲間たちによって真っ白に拭われ、彼は恋した少女と結婚式をあげ、仲間の祝福のうちに送り出される。このチョンボは純粋だ。純粋すぎて、貧乏すぎて、少し法からはみ出しただけだ。だったらそれは拭ってやろう、金無垢の衣装を着せて祝福してやろう。限りなく弱者に優しい映画監督マイケル・ホイの真骨頂である。
世間からすれば、『Mr.Boo!』なんか大昔の古くさい喜劇映画でしかないのかもしれない。数多ある香港の才能の中で、マイケル・ホイの映画はとうとう世界に発見されずに終わった。しかし彼が世界最高の映画監督の一人だということを、オレは知っているんだ。オレが知ってたところで、屁のツッパリにもならんけどなあ…
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