[コメント] 不壊の白珠(1929/日)
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大衆文学の菊池寛はこの手のメロドラマの題材を映画界に多数提供したらしいがそんな一本(本作は川端康成ゴーストライター説があるらしい)。字幕が多過ぎてサイレント向きでない題材とも見えるが、緊張感の持続する演出で魅せてくれる。
砂浜にI LOVE YOUと書くなんてのは当時新しかったのだろう。ここで及川道子が傘を砂浜に半円に転がすショットがいい。序盤の半地下のカフェの硝子のシルエットも格好いい。最後は八雲もまたこのシルエットになって去るのだった。
冒頭の八雲の悪夢はドリーによる寄りの大アップが反復され、グロテスクな効果を生んでいていい。その他、心理描写でもこれは使われている。ナルセも初期はこの手法を使っていた。ふたりとも後年はまるで使わなくなるショットで、ある種の流行りだったのだろうか。流砂のようなノイズが画面を横切り気絶する八雲の件も印象的。当時のモノクロはシーンにより違う着色がされるのだが、及川と高田とのドライブが血のように真っ赤なのも衝撃がある。サイレント時代の清水は意欲的で、どうしてここからあのノンシャランなタッチに至ったのか不思議。
妹の結婚相手にラブレター出しちゃったどうしよう、から始まる八雲のもの云わぬ心理描写の積み重ねが優れており、及川の徐々に現してゆく奇怪なブルジョア志向もグロテスクに至る。おんな二人並んでベルイマンを想起させるものがある。八雲の複雑な表情の変遷が素晴らしい。まさに元祖昼メロの味がある。「タイピストってみんな不良モガなんでしょ」とこく高田の失礼な連れ子も神経症的で、この姉妹、交互に頭を前後に振るのがとても奇怪でベルイマン好み。及川高田の終盤の喧嘩はシュールな迫力があり、八雲及川の対決も背景がなくなりシュール・頭を抱えて膝まづく八雲の悲観。
姉妹の実家のある中野は田畑のあるフツーの田舎だが、中央線はすでに電車が走っている。及川を誘惑する男の新車「nash」とは何だっただろうか。ラストで高田がアメリカへ去る「浅間丸」は横浜サンフランシスコ間に1929年から就航した日本郵船所有客船で物凄い別れのテープの本数だ。パーティの楽団はバンジョーも見えるが、どんな音を出していたのだろう。映画はサイレントでサウンド版でもないが、冒頭に主題歌の歌詞が表示される。みんなで歌う仕掛けだったのだろうか。
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