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[コメント] 青い山脈・続青い山脈(1949/日)

山とある石坂洋次郎映画のなかでもやはり本作は一頭地抜けている。池辺が月眺めて、原始人の感覚が甦る、これを許してはいけないと語り合う件がとても印象的。性欲を理性的にコントロールし続ける石坂的青春群像の根本思想なのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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前半は新子(杉葉子)の巻と巻末に記されるが後半に対照される表記がないのがいい加減。港町。自家製の卵売って学用品にするセーラー服の杉葉子。卵15円、普通は20円と云い、乾物屋の落第生池辺良はその卵をちゃっかり料理させて知り合って街頭でふたりで手相みて貰う。中盤で再会して快活な男子校でテニスして男子寮で歓迎される。小さい町ではそれらは観察されて噂の種になる。

元バスケット選手の新任英語教師原節子に、杉は偽物のラブレター貰ったと杉が申告。前の学校でも同じことがあり杉は学校を追われていた。相談受けた校医している医者の龍崎一郎は握りつぶせ、この町の封建的な姑や亭主のなかで生きて行くにはある程度バカでならなきゃいけない、ボクの将来は持参金付きの嫁貰ってひとりぐらい囲い者つくると云って(あとの展開から冗談と判る)原の平手打ちを喰らう。

原は授業で「恋愛」と板書してディベートの時間。昔は恋愛は悪いことだったが今は封建的でなくなったからいいことになったと生徒。匿名でラブレター書くなど下品な方法は間違いと杉の件の説明求める原に、池辺との件指摘して学校の名誉に関るから反省して貰いたかったと手紙書いた山本和子ほか(後に、あんな手紙貰うの大好きでしょと杉に云ってのけて平手打ちされる)。原は、男と一緒だと不道徳という考えから抜け出してほしい、学校のため家のため国家のためという立派な名目で、個々の人格を束縛して無理矢理ひとつの型に嵌めるのは、日本人の今までの暮らし方で一番間違っていたことだ、情けないと叱る。生徒たちは酷いわと泣き崩れ、杉以外殆ど全員が関わっていたと判明するのだった。

原は海の見える松並木に杉を誘い、こういう処ではできるだけ行儀悪く座るのが自然に叶っていると靴を放り捨てて(このアクションが素晴らしい)学校辞めるという杉を慰める。原は闘うから貴女は当分休んでなさい、負けたら一緒に東京へ行こう、貴女はダンサーでもなさいとふたりで社交ダンスを踊り、どんな場合でも陰気でめそめそしないことと教える。この造形で本作の原は一貫している。

生徒は反乱し、学校は世間知らずのお嬢さん、私立学校では理事会や父兄会の機嫌を損ねたらたいへんと噂し、校長田中栄三は理想と現実とは違う、悪いと思うことでもそのままにしておかねばらなん、教師はときには政治家でなくてはならないなどと諭す。生徒らは学校の名誉を守れとか云う板書された依頼状を原は次々論破。教室は沸騰し、そこに体育教師の生方功が入ってきて嫁にいけなくなるぞとか趣旨に叶わぬ説得をして、生徒は退学させて貰うと云って泣き出し、原はいたたまれず退席。音楽教師に嘆いても少し柔らかにと諭されている。

龍崎は本当にバカやっていて芸者と親しいが患者の母親。自転車二人乗りで転倒しかけて、あたしゃ大和撫子の血を引いているからパンツとかズロースは大嫌いと云う芸者の木暮実千代。妹が若山セツ子。職員会議で殴られて堪えたと原の擁護に回り、原に謝らせようとする事なかれ主義を糾して徹底的にやらないと禍根を残すと語る。老先生の原緋紗子がこっそり原を励ましに来ている。

山本の父で町の有力者赤牛三島雅夫(木暮の妹立花満枝を妊娠させている)は教頭や体育教師や文屋と宴席で原潰す相談。医師の家でも談判。若山はバンカラ学生の伊豆肇に背負われて帰る。

杉と池辺はテラスに残って、池辺は、月を見ると原始人の感覚が甦って来るらしい、衝動で行動する善悪のない世界、遠い先祖たちの単純な感覚が呼び覚まされると語る。杉は今日の世界に生きている私たちはそんな感覚を許してはいけない、でないと動物と同じになってしまうと応える。そして二人は、人間であることを誇り得るような生活をしないといけないと語り合う。これは本作で一番重要な件かも知れない。そして、原に同行断られて夜間診療に出かけた龍崎はチンピラに殴られて、龍崎家の犬が剣呑にワンワン吠えて前半終了。

続編は包帯巻いている龍崎の部屋で木暮が煙草で火傷して床に投げ捨てているが火事は心配ないのだろうか。寝ている間にすり替わった原は、夫は妻に対して爆弾を抱えているような配慮をしてほしいと結婚観を語り、では貴女は原子爆弾だと龍崎はトンデモない冗談で返す。

決戦の理事会。理事長の三島が挨拶、校長が司会。先生の釜足が証拠物件のラブレターを変しい変しい私の変人と朗読、戦時中に勉強できなかったのだろうと噂される原は抗弁し、保護者の岡村文子は原と龍崎の接吻の噂を喋ってかき回し、いやあれは原の平手打ちと語り、高堂国典は生徒の面前で醜態を晒すものは辞めさせろと激怒。伊豆は格言を述べ続け、龍崎への恋慕から原の擁護を躊躇していた木暮は、男は女に殴られるのを悦ぶものだとの意見を開陳し、龍崎は接吻を妄想するのは抑圧のせいだと語る。投票になり、木暮は字が書けないと云っている。投票は原が勝ち、本日は欠席が多く理事会不成立と三島はよく判らない悔し紛れを云っている。この件は有名だが、演出に隙間が多くて笑いに欠けてイマイチ。ここが良ければ傑作だったのにというのが私の感想。

杉は池辺と岩場で水泳。男三人がボートから冷やかして喧嘩。倒れた池辺に杉は好きだわと告白したりする。山本和子は件の手紙取り返そうと校舎に忍び込んで当直の釜足に捕まり、良心の呵責なんだろうと不問に伏す。山本は杉と仲直り。杉は条件だと云ってこの前のお返しに頬をビンタさせるといういい件がある。ラストはサイクリング。生徒たちの前で龍崎は原に結婚を申し込み、原は承諾し、若者にも連鎖し、石坂的主題は完結するのだった。

結局、木暮の恋は破れ去るのだろうか。眼鏡の若山セツ子が有名だが、活躍が少ないのが残念。海岸の町の話なのに何でこのタイトルなのだろう。主題歌は何で古い背広と一緒に眩しい夢にもサヨウナラを唄うのだろう。再見。

(評価:★4)

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