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[コメント] 民衆の敵(1946/日)

裏『一番美しく』。終戦直後の反戦映画は軍よりも財閥への批判が多い。この傾向はすぐ消えてなくなり軍批判ばかりになるのだが、これこそがGHQの差し金ではなかったのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ものすごい悪役振りの江川宇礼雄は新社長の鳥羽陽之助に語る。「軍需工場はいいものだ、金は政府がいくらでも貸してくれるし、徴用工という安い工員はいくらでも集められるし、製品は軍が無条件で引き受けてくれる。貴方は黙って座っていればそれで結構」。軍需拡張政策で現場は安全が切り捨てられる。連中が増産しか考えていないのは『一番美しく』他の増産映画が「感動的」に記録しているのだから真実に違いないのである。

そして鳥羽は敗戦に際して「書類焼いたか」と号令を飛ばしまくり(これは当時から知れた出来事だったのだ)、「こんな会社があったことも知らん」と窮極のギャグを飛ばすに至る。志村喬と江川の会社内の対立、丁々発止も興味深い。志村は「戦争に負ける、軍需生産に先が見えた」と変わり身の早さをみせて江川を切り捨て、私は戦争に反対だったと嘯くのだった。

花柳河野秋武に対する「貴方もあやかりたいなら正直におっしゃい」なんて科白は見事なものだが、彼女の反省は無理筋で退屈なメロドラマにしてしまった。撮影美術はさすがに46年で高望みはできないだろう。ベストショットは田中春男が殴られて扉にぶつかって扉が開いたら仲間が揃っていたという件。彼は♪人が嫌がる徴用工、親が見たなら泣くでしょね、と歌って罰せされている。徴用工には日本人もいたという記録と見るべきか、田中はコリアン役なのか、判別はできなかった。河野の社長のブルジョア批判は、彼が昭和初年にプロレタリア活動に一時かかわったことを示すものだろう。復活なった金子肥料工場のラストはいいものだがそこで喜んでいるのが、ついこの前まで戦争プロパガンダ映画に出ていた藤田進たちなのには、何とも云えない虚しさがある。脱走の告白する工員は花沢徳衛か。河野糸子が可愛い。

(評価:★4)

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