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[コメント] 戦国無頼(1952/日)

初公開時から30分ほどカットした短縮版(105分版)を見た。クレジットは、右から、三船敏郎三國連太郎市川段四郎の名前が一枚で出る。最初の舞台は長浜の小谷城。
ゑぎ

 青山杉作(浅井の家老か)が女性たち(信長の妹−お市の方と従者なのだろう)に織田方へ行くよう諭す場面から始まる。城を守る浅井勢の兵士たちの中に、主演の3人がおり、市川が皆に、討死か逃げるかを確認するのだが、三國は討死を選ぶと云い、三船は、まだ死にたくない、と云う。しかし、実際は、三國が逃げ、三船は戦うのだ。と云うワケで三國は悪役。以降、出世のためには手段を選ばない男として描かれている。

 三船がまだ死にたくないと云った理由には、女性の存在がある。これを浅茅しのぶが演じていて、決戦前夜、三船を訪ねて来、信濃(武田家)で落ち合おうと約束するのだ。この場面のローキーと移動撮影が、稲垣浩らしい危うさのある普通じゃない視点(アングル)で、とてもいい。ワタクシ的には、こゝが前半のハイライトだ。仔細は省くが、三船は三國と浅茅を二人で逃がし、合戦に加わった三船も市川も負け戦の中、なんとか落ち延びるのだ。こゝからは三船が落ち武者狩りの集団に拾われ、首領−東野英治郎の娘−勝気な山口淑子から秘かに想われる、といった三船の状況がメインで描かれる。

 三船が東野や山口の住処を後にして以降は、武田軍など織田方と戦う陣営に身を置く三船と、浅茅や山口が三船を捜す旅が描かれ、特に三船と浅茅のニアミスが続くのだが、一方で、三國と山口が偶然知り合ったり、浅茅が海賊になった市川の子分−上田吉二郎に捕らえられたりといった、スモールワールド攻撃が過ぎるプロット展開だ(短縮版だから余計にそう感じるという面もあると思うが)。

 終盤は、丹波の八上城を舞台とし、明智軍に身を置き出世した三國が、山口を人質にとって三船を呼び出し殺そうとするが、市川も現れて三船に助勢する、という展開で、主要登場人物の中では浅茅以外は全員集まる場面なのだ。逆に終盤、浅茅が消えてしまうのは、映画としては、いびつなプロット構成に感じられる。ラストシーンでは、浅茅も出て来るが、クレーン俯瞰でとらえられた後ろ姿の遠景ショット(これも稲垣らしい、ちょっと普通でない俯瞰)であり、良いショットではあるが、彼女の顔も見せないのだ。これはどうしたことだろう。矢張り短縮版だからか。全体に、山口の方がヒロインに相応しい見せ場が沢山ある結果になっている。

 尚、三代目市川段四郎は冒頭一見した時点で、香川照之(九代目市川中車)そっくり、と思ったが、見終わって調べると、やっぱり、香川のお祖父さんでした。顔だけでなく声もよく似ているのだ。この人は、私は映画で初めて見たが、いい役者だと思った。本作では顔に凄い傷のメイクをしていることもあり、恐るべき存在感だ。この人の場面をもっと見たかったと思う。

(評価:★3)

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