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[コメント] 悲愁(1959/米)

本作も甘々なところはあるが良く出来たメロドラマだ。タイトルクレジットをはじめレオン・シャムロイは海辺の撮影で際立った美しさを見せる。特に中盤、マリブビーチに家を借りてグレゴリー・ペックが「ラスト・タイクーン」執筆に入るあたりからがいい。そして本作にはラスト近くで驚愕の空(から)ショットがある。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
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 マリブビーチのシーンは浜辺の光りの扱いが美しいし花の多い画面も綺麗だ。またこの家で、失意のF・スコット・フィッツジェラルド−グレゴリー・ペックが酔っ払って引き起こす修羅場の演出が凄い。ペックの大酒演技も悪くない。胡散臭さがこの人によく似合っている。

 さて、ラスト近くの特筆すべき空ショットについて明記しておこう。ペックがデボラ・カーにヨーロッパ戦線への従軍プランや次作の構想を話す幸福なシーンの後、唐突に床に倒れる。その後のデボラ・カーの狼狽ぶりも過剰な映画的造型で目を引くが、救急車や警官が駆けつけた後の場面で、倒れているペックに白い布がかぶせられ、次のカットでそれを見たデボラ・カーが悲嘆にくれて一瞬目をそらし、すぐにまた目を戻す。その次のカットが誰もいなくなった無人の部屋、つまり空ショットなのだ。一瞬前まで警官や救急隊員がいたはずの部屋が無人になっているのは皆がペックの亡骸を屋外へ運び出したからなのだが、明らかに継続的な時間感覚を無視する繋ぎで、云わばジャンプカットと云ってもいい繋ぎだが、これが空ショットとして提示されている。ホラー映画ならともかく、この手の映画でこんな繋ぎは初めて見た。私は唖然となりながらも成瀬の『乱れる』を想起した。確かに本作のデボラ・カーも、この状況の中、誰からも一顧だにされないわけで、そういう意味で酷く突き放されて終わる。ラストのラストは彼女が一人マリブビーチを歩くシーンに主題歌がかぶさり、彼女のロングショットでエンドマーク。この処理については成瀬に比べてヘンリー・キングはかなり甘いと思うが、仕方が無い、これはハリウッド製メロドラマなのだ。しかし、くだんの空ショットは厳しい厳しい演出。成瀬と比べても引けをとらない峻厳な演出だ。

(評価:★4)

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