[コメント] 身代金(1996/米)
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誘拐モノでは黒澤明の『天国と地獄』がどうしても連想されてしまうが、実はこの『身代金』の元となった『誘拐』が製作されたのが1956年、『天国と地獄』は1963年頃なので、『誘拐』の方が以前に作られていたことになる。原題はいずれも『Ransom』だ。
『誘拐』は見ていないが、グレン・フォードというと今でこそ地味で印象的な脇役であるが、当時は最も稼ぐ役者だったと言われている。1960年代にかけて数々の映画に出演しており、今も現役だ。
今メル・ギブソンと比較することもないだろうが、リメイクとなると例えばハリソン・フォードのように原型からかなり離れた印象を与える場合もあるが、今回は何となく当時が彷彿とされるように思う。
誘拐映画の原点は、犯人像だ。元の『誘拐』では、犯人像は具体化せず、むしろ身代金を要求される当事者心理を徹底的に追いつめて、マスコミや警察、家族の軋轢など、平和な家庭を一気に崩壊せしめる事態を克明に描いていたようだ。これはこれで面白そう。
対して『身代金』においては、犯人像が冒頭からはっきりとしていて、身代金を払う側と要求する側が真っ向から対立する。そこまでののしりあわなくても良いのでは?と思うほどのバトルを繰り返すのである。しかしこれが伏線になっていて最後の最後にその戦いが別の形で結実するのだ。
いつも思うが、今回もゲイリー・シニーズはうまい。悪役、という顔に見えるが、メル・ギブソンを圧倒している。この迫力と個性的で目つきの悪い顔はロン・ハワード作品には欠かせないアイテムと言えるだろう。
ロン・ハワードはうまい。アメリカ映画だから、というよりもある緊張したシーンの役者に表情を見事にとらえる。最後の懸賞金受け渡しのどんでん返しのやりとりなどギブソンの表情、子役の表情、そのカットのつなぎ、画面に漂う緊張感。これ実に見事と思わせる。彼は親の影響もあって幼い頃からこの世界で働く者であり、自然と体にしみついてこの感性と感覚はうまれいずるものなのだろう。非常にオーソドックスである、という見方もあるが、これがなかなかできそうでできないものだ。『アポロ13』や『ビューティフル・マインド』でも、面白いと思わせる演出を随所に織り込んでいる。安心して見ていられる少ない監督だろう。
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