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[コメント] フルメタル・ジャケット(1987/米=英)

圧倒的な前半部とやや冗長に思える後半部。 2004年1月24日DVD鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いや、比べていいのか知らんけど、キューブリックファンの方々には悪いけど(俺もキューブリックは好きなんだけどね)、絶対『スターシップ・トゥルーパーズ』の方が面白と思うよ。うん。

恐らく『スターシップ・トゥルーパーズ』は、多少は本作品にオマージュを捧げているのだと思うけど、全体的に観て、『フルメタル・ジャケット』は狂いきれて居ない、と言う風に感じた(ぉぃ

個人的に、前半部の訓練施設の圧倒的なまでの台詞と狂気の洪水、そして”調教”されていく殺戮マシーン達の姿はかなり素晴らしかった。テンポも良く、素晴らしい出来栄え。全く退屈さを感じない圧倒的な巨匠の力を見せ付けられた感じ。

けど、後半部の、戦場に駆り出された後の流れは、前半部が良すぎた為かイマイチに感じた。結局そこに殺戮マシーン的な狂気が観られなかった、と言う感じだろうか。

例えばバーホーベンなら、皮肉交じりにヒロイズムと同胞愛をベタに描き捲くる事で偽善を描き出していた。この作品には、それほどの強烈な皮肉を感じられなかった。あるのは戦場と、闘う兵士だけ、と言う感じ。

確かに、戦場なのにどこか無機質な感じにはちょっとばかり圧倒されたけど、全体的に長すぎる上に盛り上がりに欠ける気がした。

前半あれだけ徹底的に”調教”やっていたのだから、後半こそ、徹底的に”調教の成果”を見せきってくれないと、バランスが崩れる。っていうか崩れてる。

と、ここまで書いた所で何ですが、後半部を見て「狂気が足りない」などとほざいている地点で、鑑賞側の俺は前半部により”調教”されていたんですね。間抜けだなぁ、俺。

前半★5、後半★3

だけど、あの前半部が良すぎたから後半がつまらないのじゃなくて、前半部で「人を殺す事こそ常識だ」と教え込まれてしまったから後半が物足りなくなったのですね。僕達も心のどこかでそう思っていたのだから。

後半が物足りなかった、と言う人の中には、「ピースマーク」と「born to kill」と同様に、自らの二面性に気付けて居ないから、かもしれない。

と、言う事は、それだけ鑑賞側の殺人本能を引き立ててしまった前半は「狂気を埋め込んでいる」パートなのに、否、だからこそ最も作品中で狂った部分なのだろう。余りに出来が良すぎる、この前半部。

だから後半部で多少だれてしまったのは、予想通りであり、避けられない結果だったのだと思う。

だってそうでしょ?後半で落胆したって事は、前半部の狂気がそのまま戦場にある、と思ったら退屈で退屈で、殺すに値する奴を見つけたかったんでしょ?

完璧に兵士と一体化できる作品。コイツは傑作だ。

前半が終わり、後半部が始まった時に「退屈で退屈で死にそう。早く前線に行きたい」と言う感じの台詞があるけど、これは観客の心理と同じ。

最終的に、戦闘シーンの後半部がイマイチに感じたのは心の奥底で更なる狂気=殺戮を求めていたから。

どれだけ気取った所で、奥底にある「殺人本能」は消せない。皆二面性を持っている。

ついでに言うと、キューブリックは五月蝿いだけの反戦運動にも軽く批判の目を向けているのじゃないかな?だから平和の象徴の「ピースマーク」と「born to kill」と併記させたのではなかろうか?

「お前らだって、ここに連れてこられたらこうなるんだよ」みたいな。

(評価:★5)

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