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[コメント] 大怪獣東京に現わる(1998/日)

当たるを幸い全てを笑い飛ばす80年代のノリの軽薄は嫌いじゃないのだけど、あんまり面白くなかった。漠然としているが反原発映画で、もう吉本興業はこの手のものは作らないだろう。舞台は三国でリアルな福井弁が愉しい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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三国の田舎町、もっぱら情報はテレビのバラエティ番組という風刺はありふれているがそれでも面白い。東京の情報にはじまり甲府だ長野だ来るか来るか、翌日には大地震が報じられ、怪獣は米軍の攻撃にも無傷でインディペンデンス転覆、三日目には福岡にカメの怪獣が登場し、怪獣同士が琵琶湖で対決、中韓北朝鮮の五カ国連合で攻撃。

いよいよ近づいてきた原発があるぞと住民はパニックになり避難、しかし彼等はなんかよく判らないが美浜原発の見える海岸でバーベキューを始めているから、避難ではなく物見遊山だったのか。原発が一番安全という避難者の発言もあり、東日本大震災では女川原発内が安全だったという報道も記憶しているから、そんな行動だったのかも知れないが、それなら構内に逃げなくてはならないだろう。

来襲した怪獣を立派やねえと見物、殺されつつある怪獣への攻撃を止めろとみんな叫んでいて、何でだと桃井だけが内省する一瞬がある。原発方面への誤射でバーベキューの面々は壊滅、原発被害は不明、怪獣はミクロネシアで老衰死と報じられて終わる。

本作は漠然とした原発映画。序盤の狂ったような福井観光ガイドで、非核平和宣言都市の看板に続けて「カニの味と原子力発電量においては全国でもぶっちぎりの状況にございます」と述べられナトリウムが爆発している。老境の元反原子力発電所活動家高松英郎は(竹内力の神様は意味不明で詰まらない)、書きあげた原稿を焼いてしまい、原発に反対してきたから逃げる訳にいかないというよく判らない理屈で避難を拒むが、孫娘救うためにやっぱり避難、彼女の「ガソリンて元は動物の死体だよね。そんなんでよくここまでやってきたよ」という科白が一番深かった。最後は追悼のために怪獣の藁人形つくって若い連中と一緒に海に流して、以後恒例になったと〆られる。

原発怪獣ゴジラは味方なのだというニュアンスがあるのだが、それなら美浜原発を破壊すべきだったかも知れない。その辺り半端で深みを欠いた。初日、海が汚れたから怒って出てきたんだろうというガススタでの会話はなるほどと思わされ、三日目には桃井も同じこと云い出すのだが徹底されない。

群像劇なのだが、カットバック多用の編集はいささか煩い。裁きの日だヨブ記のベヒモスだと歓待してチラシを撒く狂信者吉行由実とか、パニックの変態教師の田口トモロヲとか、その他若い連中のいろいろも、どれもあんまり面白くない。もっと桃井ら芸達者に全面に出てほしかった。三好栄子似の桃井の姑花原照子がいいキャラ。ふれこみ通り怪獣は鱗しか見えず、出てこない必然性はないのだが安価に作ったということだろう。窮状が窺える。安っぽく引用される航空自衛隊のデモビデオが笑える。

(評価:★3)

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