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[コメント] 新宿♀日記 迷い猫(1998/日)

長曽我部蓉子の告白は矛盾し続けるが、矛盾するからこそ告白なのだと徐々に判明する『女と男のいる舗道』のバリエーション。とてもいいホンだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







長曽我部蓉子が記者の平泉成に喫茶店で事件の顚末を語り、映像で回想される構成。彼女の亭主本多菊雄は奇怪に軟体的な男。「家も車も買わず子供もできず、生きている意味あるのかしら」と問う妻に「俺たちは哲学者じゃないんだ」とアナル求めて拒否されると暴力に訴える。妻はこんな男の夜勤を迎えに出て、最後にはあの人も悪い人じゃなかったから残念と語って夫の好きだったバナナジュースを飲んでいる。

待っている会社の前で寺十吾に街娼と間違われて、付き合い始める。暴力に耐えられず夫を殺害し、寺に断られてひとりで遺体を風呂場で解体、使用した伝道鋸は亭主のカードで買ったと笑う。逃亡して、不仲だったという父の墓参りして、「お父さんみたいな人がほしかったけど、そんな人はいやしない」と語る。亭主と同じ認識だ。

このように彼女の話はしばしば矛盾するが、理路整然と語るのが自分語りだろうか。心情は刻々と変化する、だから後悔がある。他者の認識とは矛盾するものだ。この視点が本作の大いなる美点と思わされた。裁判においては、このニュアンスは整頓されて記録されないのだろう。だからこその記者への告白だったに違いない。

テープが終わり、是非記事にしてくださいと彼女は云い、記者と「貴女はバカじゃない」「バカですよ」と対話して、最後に彼女の自首が語られる。インタヴュー中外されない彼女のブラウンのサングラスがいつまでも脳裏に残る。すでに携帯電話が使われている。

(評価:★4)

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