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[コメント] イタリア旅行(1953/伊=仏)

ニヤニヤしながら眺める群集も、偶然だろうが、また味があっていい。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







素晴らしい映画だ。あと少しで★6。

いわゆる倦怠期の夫婦が、妻の伯父の遺産整理のため旅行も兼ねてイタリアにある別荘に向かい、その過程で自らのプライドのためお互いを傷つけ合うのだが、最後にはお互いの愛を確かめ合うというシンプルなお話。夫のことを愛しながらも自分の気持ちに中々素直になれない妻の姿が、イタリアの美しい街並みや遺跡と共に描かれる。

印象的なのはカトリーヌがソファーで寝た振りをして夫の帰りを待つシーン。夫に悪態を吐いたりするのだが、なんだかんだで夫のことが気になり、中々眠れない様子がいじらしい。映像的にもアレックスが近づくに連れて、挿まれるイングリッド・バーグマンのアップショットは本作品の中でも指折りの美しいショットと言えるだろう。彼女自身が美しいのはもちろんだが、強がりながらも夫の帰りを待ちわびるその表情がなんともいえない。

また、トリポリで発見される夫婦の無残な姿を見て悲鳴をあげるカトリーヌが痛ましい。 今まさに別れようとしている二人にとって仲睦まじく抱き合いながら死んだ夫婦の姿というのは非常にショッキングなものだろう。

なんといってもラストシーンがたまらない。 群衆に車を取り囲まれ、車内で着々と進む離婚話。 妻の真の想いは、そのプライドため、中々吐き出されない。見ている側としてはかなりじらされる。 しかし、突然群衆が移動するところから一気に流れが変わる。 群衆に巻き込まれ、夫の名前を叫ぶ妻。混乱する群衆。頭を抱える老人。妻を助けるため群衆を掻き分ける夫。しっかりと抱き合う二人。 ここで二人が頑なだった気持ちを振り払って、今まで貯めに貯めていた気持ちを爆発させる。 ずっとじらされていたためか、またこのカットのリズムのためか、全身に鳥肌が立ってしまった。 抱き合う二人をニヤニヤしながら眺める群集も、偶然だろうが、また味があっていい。

最後に個人的な話で悪いが、似たような経験をしたことがある私にとって、この映画は非常にショッキングなものだった。

(評価:★5)

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