[コメント] 北北西に進路を取れ(1959/米)
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ヒッチコックがイギりス時代に最も得意とした"巻き込まれ型″サスペンス作で、アメリカで作った本作こそがその完成型とも言われる。
隅然大きな事件に巻き込まれてしまった主人公が知恵と機転を総同員しての逃亡の中で真実を知っていき、やがて積極的に関わっていくと言うパターンで、このパターンの良い点は謎解きとアクションを両立させることが可能ということ。ただ一方では、話が運頼りになりがちになってしまうため、物語の整合性が取りにくいこと。作り方を失敗すると、単なるご都合主義の固まりになってしまう。
これらをひっくるめてヒッチコックはこのパターンの物語を多く作っている。イギリス時代にも『三十九夜』(1935)などの良作を作り出していた(実の話を言えば、こちらの方がよりソリッドにテーマが強調されているので、私はこっちの方が好きなのだが)。アメリカに渡った後、今度は潤沢な予算を用いることができるようになり、更に有名どころの俳優が用いることが出来るようになった。よって、より派出に、豪華なものが作られるようになった。 『間違えられた男』(1956)を経て、その最高の形での最高の形で表わされているのが本作であろう。ちょっと荒唐無稽に過ぎた部分はあるものの、緊張感、演出、キャラ共々に見事な形で表されている。
ヒッチコックは人間の恐怖を描くことに関して名手だが、これらの作品に通じてそれが表されているのは、“人間がいかに簡単に間違えられ、しかも抹殺されるかという恐怖”ではないかと思われる。たった一言に反応したという、それだけでここまでの目に陥るという主人公には気の毒としか言いようがない。
ただ、それを彩る演出は最高で、特に飛来するセスナからの逃亡シーンのカメラアングルは煽りアングルの見事な手本になっている。広角視点で撮られたアングルは、手前にいるグラントをより小さく、迫り来るセスナを巨大に映し出し、あたかも同一画面に人間と怪獣を同時に配したかのような派手な演出を可能にしていた。
これを演じるグラントも名演技。最初はただ巻き込まれて戸惑うばかりだったのが、やがて主体的に事件に関わっていき、最後に決める所はしっかり決める。上手かった。以降の作品は大人の分別とかそれに対するミスマッチぶりばかりが目立つようになるが、本作が役者としても最高潮だったのだろうと思われる。
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