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[コメント] クンドゥン(1997/米)

勝手な妄想で言って良ければ、これも又アメリカを映した映画のように思います。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実在のチベット指導者ダライ・ラマ14世について描いた作品で、1935年の生誕から、活仏として見いだされ、ラサで即位。そして中国政府との戦いの末にインドに亡命するまでの激動の半生を描いた作品で、主役を三人用いてそれぞれの時代の出来事を描いて見せた。

 これまでアメリカでの歴史や精神というものを一貫して描き続けてきたスコセッシ監督が、突然海外の、しかも生存中の人物を描こうとしたのか、実はこの作品を観た当時理解が出来なかった。なんでよりによってスコセッシ監督が?しかも暴力描写に定評のあるその手法まで封印して?更に言うと、チベット問題が言い立てられたのは抗議運動が激化した1989年頃だったので、告発映画にしても些か時期が遅れてるような?いろんな意味で疑問符ばかりの作品だった。

 正直今でもそれは理解してない自信はあるのだが、いくつかスコセッシがこれを作ろうとした動機は挙げられると思う。丁度そう言う報道を観て、そこから義憤に駆られたにせよ、企画を立ち上げて制作にこぎ着けるまでにはそれだけ時間がかかったと言う事と、このチベットで実際に起こったことを通し、これまでのアメリカ人が行ったことを総括して見せようとしていたのかもしれない。元々スコセッシはデビュー当時から一貫してアメリカを描こうとしていた。それは歴史であることもあれば、精神世界であったりもしたが、いずれにせよ、スコセッシ監督の中にあるアメリカという国を理解してもらおうという意識に溢れていた。本作もその延長線上にあったのかもしれない。

 つまり、アメリカがこれまでしてきたこととは、ヨーロッパ人がアメリカ大陸にやってきて、平和に暮らしていた先住民族を蹂躙したという事実と、国連の常任理事でありながら、ここまで非道な行いを放置して来た現在のアメリカという国のことを。

 やっかい事に巻き込まれたくないという国際的な消極性が、実は最も大きな悪に荷担している場合もあるのだ。かなり遠いけど、一種の告発映画と見ることも出来よう。まあ、これが勝手なわたしの見方であるという非難は甘んじて受けるけど。

 映画の内容的には非常に淡々とした作品で、本当にスコセッシらしくないなあ。という感じではあるのだが、静かな中に演出力は流石というべきで、圧倒的な美しさを感じ取ることは出来る。本当に丁寧に作られていることが分かるので、チベットの歴史を知りたいという人には格好の教材になるのではないだろうか。

(評価:★3)

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