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[コメント] レベッカ(1940/米)

一見一本調子のようでありながら、決して観客を飽きさせません。ヒッチコックのうまさが凝縮したような作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 それまで故郷イギリスで数多い傑作を作ってきた監督だが、本作とイギリス時代に作ってきた作品には大きな違いが見受けられる。

 一つには、それは空間の使い方が挙げられる。

 これまで作ってきた作品は、どっちかと言うと狭い屋内を中心としたもので、ロケをしても、スピード感あふれるカメラワークを駆使することよって、ゆったりした雰囲気が出ていなかった。それに対し本作は一気に空間的に開放された感があり、雄大な自然や一軒家の館の展望。集まる人々のゆったりした空間など、これまでに無い伸びやかな演出が見られる。特に最後のクライマックスシーンなんかは、アメリカ資本でなければ到底作れなかったスペクタクルシーンで、これを言っちゃ元も子もないけど、金があるのとないのでは、こんなに作りに差が出るのか。と思わせられる出来だった。

 そしてもう一つ。監督の演出はより尖鋭になったものを感じさせる。

 そのために改めて本作を構造から見てみよう。

 イギリス富豪の家に嫁いできたアメリカ女性が、死んだ先妻のレベッカの影響のためどんどんコンプレックスの固まりになっていく。そして死んだレベッカとはどういう女性だったのかを探る。

 改めて構造だけを抜き出すと、これだけで済んでしまうのだ。もちろんホラーサスペンスとして演出自体はいろんなひねりがあるし、複雑に絡んだ事件の真相を一つずつ明るみに出していくという絶妙の物語展開もあるのだが、物語の構造自体は驚くほど一本調子で終わっていることが分かる。普通こういう場合、いろんなミニストーリーや登場人物の描写などを入れて複雑化させるだろうが、ヒッチコックはそんな手を取らなかった。敢えて一本道のシンプルな物語構造を選んだのだ。

 これはストーリーの面白さで充分観客を引っ張っていけると言うことと、演出で観客を飽きさせない自信があったからなのだろう。監督にとっても本作は相当な挑戦作だ。

 そして今の目で観ても、本作のシンプルさは、まったく色あせていない。

 そういったシンプルさを映画として成立させられたのは、観ている側にストレスを与え続けているということだ。以降の『断崖』や『』と言った、ストーリー的にシンプルな作品でも、観てる側が「この真相は何?オチはどう持っていくの?」と思わせ、そしてそれをうまくかわしていくことで、最後の最後までストレス溜まりまくり。終わった時にようやく「ほーっ」とため息をつかせられる。

 そのストレスの与え方も本作は非常にうまくできていて、途中で「ひょっとしたらレベッカって生きてんじゃね?」とか思わせながら、「それともひょっとしたら幽霊か?」「死んでるんだったら死んでるで、何でそんなに隠すんだ」…とイライラしっぱなし。

 そこで与えられるストレスこそが本作の最大の醍醐味だったと、今になって分かる。結局ヒッチコックの手のひらでうまいこと踊らされていたわけだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

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