[コメント] レベッカ(1940/米)
ローレンス・オリヴィエは当時の恋人だったヴィヴィアン・リーを共演に要求したが、それが叶えられないことになり、ジョーン・フォンテインを冷たくあしらったという。そのオリヴィエの態度に恐れをなしたフォンテインに気づいたヒッチコックは、スタジオにいる全員に彼女につらくあたるよう指示し、その機転のおかげで彼女からオドオドした絶妙な演技を引き出した・・・と当時の文献は書いている。しかし、とんでもない。そうした演出の手法が実際あったのかもしれないが、ここでは残念ながら完全に的を外している。表象的に立ち上がる演技としての効果よりも、どちらかというと演者である彼女から劇的要素を取り上げてしまった格好になり、図らずも彼女のモチベーションを完全に削ぐ形となって目も当てられない結果となった。おしむらくは、タイクーン・セルズニックがしょっちゅうスタジオに顔を出すために集中力を削がれたヒッチコックにとって、不覚の作品となっている。ヒッチコック自身も言うように、この作品は到底彼の作品とは呼べない代物である。さらに言を費やせば、ご都合主義に堕した、映画の倫理をも超越した恐るべき破綻をきたした駄作の部類ともいえる。唯一の救いはやはりヒッチコックのテクニックによる映画的ムードの醸成にある。この映画にオスカーをもたらしたのは、凡庸なシナリオを最良の映画術で料理したヒッチコックの手腕によるところが大きい。モンタージュによる映画の語りに天性の才を見せたヒッチコックが、まさかあんな饒舌な劇半を許すわけがない。シナリオ執筆に参加できなかったヒッチコックの憤慨が手に取るようにわかる泣きたくなる映画だ。
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