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[コメント] シャイニング(1980/英)

未来を奪う過去のシステム。それは今も生き続ける実体なき幽霊。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作の結末を変更し、ジャックを1921年という過去の写真の中に収めたことで「ジャック=過去」という図式が明確になっているのが特徴的だ。そもそも幽霊という存在自体が「過去」の存在であり、そんな幽霊に殺された者は未来を奪われ、ホテルの中で「過去」の一員となるのである。これに対しシャイニングとは「過去と未来」を見通す能力である。しかし超能力は過去には作用せず、変えることができるのはこれから起きる未来のみである。つまりこの映画が描きたかったのは「幽霊VS超能力」ではなく「過去VS未来」という対立の構図だったのだ。

ではホテルの「過去」とは何か。ホテルの立地はインディアンの墓地を奪った場所であった。これを飛躍して考えると、インディアンという先住民がいた土地に勝手に建国してしまったアメリカの姿に重なって見える。そういえば亡霊たちは黒人をニガーと呼んでおり、建国時の奴隷制度の名残りを感じさせる。つまりホテルとは先住民を犠牲にして今も居座り続けるアメリカという「国家」の象徴であり、それは現在も生き続けている「過去」である。

そんなホテルの目的はジャックを使って家族に干渉し、崩壊させることだった。そして霊たちはその様子をパーティーの余興のように楽しんでいるのである。ということは他人を犠牲にし、喜ぶ者こそ「幽霊」であり、それはアメリカという「国家」が他国を犠牲にしても自国の利益を守ろうとしたベトナム戦争にも当てはまる。そんな「国家」という「システム」は目で見ることができない存在であって、それは実体のない「幽霊」と同じなのだ。

ではジャックとは何者だったのか。ラストシーンから考えると、ジャックは「過去の存在」であり、彼はホテルで起きた惨劇を繰り返そうとしていた。すなわち彼は「過去の過ちを繰り返そうとする者」であり、「過去の過ち」をアメリカという「国家」に当てはめると、それはベトナム戦争に他ならない。つまりジャックとは「戦争という過ちを再び引き起こそうとする国家」という「システム」だった、という見方もできるのだ。

一方、シャイニングは「未来を予知する力」であるが、その力は「過去」に比べてあまりにも無力だった。それゆえシャイニングの黒人も実にあっさりと殺されてしまう。それでも彼は雪上車を運びダニーたちを「未来」へと導いた。つまりシャイニングとは「未来へ導く者」とも言えるのだ。では現代に生きる私たちにとっての「未来」とは何か。それはダニーのような「子供たち」である。そんな子供たちを「戦争という過ちを繰り返さない未来」へと導く者がシャイニングであるなら、それは超能力など持たない私たちにも可能なのだ。つまりこの映画は、私たち自身が子供たちを守るという「シャイニング(輝くもの)」になれば、人類の未来も「輝くもの」になるだろう、というキューブリックのメッセージとも受け取れるのだ。つまりこの映画は「過去の亡霊」を描きながら、メッセージは「未来への希望」という真逆の構造になっており、それは「REDRUM」という真逆なメッセージに重なるのである。

余談だが、この映画にはカットされた幻のラストシーンがあるという。それは生き残ったダニーにホテルの支配人が会いに来て、黄色いボールを手渡すというシーンである。これはホラー映画によくある「まだ終わってないぞ」的な演出だが、キューブリックの狙いは他にあった。ホテルが「国家のシステム」だとすれば、「国家のシステム」がダニーを追いかけ、そして追いついたと受け取れる。それは、ベトナムという戦争は終わったが、アメリカのシステムはまだ生きているぞ、というメッセージとも受け取れるのである。ま、それも幻に終わったという幽霊話なのだが・・・。

それはともかく、一番の幽霊はこの映画。映画とは実体なき幽霊であり、キューブリックも実体なき幽霊になってしまった今、この映画に取り憑かれるほど魅了された人がいたとしても不思議ではない。全ての映画ファンにとって、キューブリックの映画こそ「輝くもの」であり「シャイニング」なのだから。(2011.12.12)

(評価:★4)

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