[コメント] 弾痕(1969/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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加山雄三はアメリカの手先。射撃されてよけた流れ弾に民間人大地喜和子が当たる。医者には連れて行けないのだろう、彼女の自宅で麻酔無しで治療。文句も云わずに自分の彫刻の解説始める太地が底抜けに変わり者だが、変わり者だから覗ける世界があるとも云える。墓地歩きながら、石は喋るの、森は嫌い喋り過ぎると饒舌。味噌汁に係る愛国的街頭インタヴューを不思議そうに無視する。加山に惚れてやたら8ミリ回す。写されて内情ベラベラ喋る守秘義務違反の加山は仕事厭になっていると判る。
加山は今はなき立川の飛行場バックに、このフェンスは俺にはないノダと回想を始める。父はロスで絹貿易していてアメリカ市民権を持っていて、大戦で財産没収されてアリゾナ収容所。加山は新聞売りして市民権を再取得して、金のためにいまの商売。太地も巻き込んでしまったなどと語って腐れ縁が成立。なぜ若大将の延長がゴルゴなのか、という難問を映画は言外に漂わせる。
加山は中華人民共和国貿易促進使節団(国交はないが民間交流は細々とあった時代)から逃げ出す岸田森をクーペで拾ってアメリカ大使館に送り届け、岸田森は中国から日本経由でアメリカ亡命するが、中共スパイと知られて脳波研究所収容、SFチックな部屋で加山の上司岡田英次が光線浴びせて雑音聞かせる拷問。禿げた岸田は鼻血出して悶絶の怪演。死のセールスマンアンディ・シームズの訪日に合わせて接触しようとした岸田がアメリカに旅立ったのは小さな瑕疵。死のセールスマンは国を愛する心からは何も生まれないと加山を仲間に誘って加山に撃ち殺される。
冒頭はアメリカ要人へのテロ犯を張り込み盗聴し、ヘリから射殺。テログループは米軍基地へも爆弾闘争しかけて火だるまになり、加山に血みどろの顔見せて絶命、加山は内省する。ここなど逆から見られた若松映画の趣がある。よく東宝で撮ったものだ。直江津でボートに乗ってハングル喋る舟の二人組を射殺、巡視船と撃ち合いという断片もある。米対中共の埋め立て地、使いの男をアメリカ人は黄色い豚と射殺、中共佐藤慶が出てきて射殺し返して加山と対決、死ぬ間際に内情をベラベラ喋るのは、加山はいずれ味方になると踏んでいるのだろうと思わされるがそうはならない。
太地と待ち合わせたアンデス行きの船(他に誰も客がいない予算処理がシュール)に加山は安保反対デモに阻まれ遅刻して、埠頭でボコボコに撃たれてさっさと終わるのはこのジャンルらしいが、挿入歌「死んだ男の残したものは」と呼応している。高石友也が新宿駅西口で唄い、加山は求められた署名を無視している。これはべ兵連のために書かれ、雪村いづみが唄って自主規制で没になった曲で、真っ先に採用を決めたと製作の貝山知弘はDVD付録で語っている。『狙撃』より地に足ついた映画を撮ろうとした、自分の親族で米収容所にいた者から話聞いて作ったとのこと。
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