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[コメント] 球形の荒野(1975/日)

ネタばら撒かれる前半は愉しいのだが、大風呂敷の政治暗闘は曖昧にフェードアウトしてしまい、安物の2時間ドラマに終わった。七つの子合唱するなよ。島田陽子鑑賞用。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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陰気な田宮二郎のナレーションで1944年5月、終戦工作していた中立国スイスで外交官、野上書記官芦田伸介が病死と語られ、61年、観音崎の岩場で娘の島田陽子が新聞記者でフィアンセの竹脇無我と、亡父が好きだった奈良市を旅する相談していると怪奇音楽が鳴るというアーバンタイトル。

寺の芳名帖に亡父と似た筆跡を見つける島田。書にやたら詳しい。翌日に竹脇と再訪するとその署名の頁は破られていた。その署名は家族の字の合成だ、これは父ではないかとふたりの推理は飛躍する。その後、書の話が殆ど回想されないのは頼りないと思う。竹脇はこの件調べまくるが、閑職なのだろうか。支所で上司の三谷昇が暇そうにしている。

当時公使館付の軍人で右翼団体の藤岡琢也が和服着てファナティックに暗躍。彼の原隊が芦田の指示で全滅したとお互い信じている。藤岡が持参した切り取った芳名帳みて暗い顔しているのが、当時同僚で現外務省局長岡田英次。眼科医の島田は仕事中に父から連絡あったかと匿名電話を受けるが藤岡の声。彼は昼間自宅にも来ていた。こういう謎のばら撒き方は清張らしく巧いものだ。

芦田伸介はお忍びで外国人妻と日本訪問していたと中盤に明かされる。敗戦間際、和平工作は役に立たなかったと自嘲。内緒で手引きした山形勲は君のお蔭で京都も奈良も焼かれなかったと讃えているが、そんな史実はなかろうから、活劇にしか思われなくなる。何で死んだふりするのかの説明として、左遷された岡田は竹脇に勝手な想像と前置きしながら、中立国にあった旧軍財産の件で切られたと語る。

藤岡はいまだに敗戦を認めていない『日本の一番長い日』系列の男。当時の外交員ひとり殺してしまい、夜中にクルマで右翼団体のドン大滝秀治に時期が悪いと説得されるが従わず殺される。芦田対藤岡の対決が回避され、物語は宙ぶらりんになる。この右翼をもう少し詳述してほしかった。

ラストは観音崎で七つの子を唄う芦田という、間抜けと云えば底抜けに間抜けな図。島田と再会を果たして他人の建前で語らい、今度はふたりで唄ってやがる。フィルターかけたかエンジ色の夕陽の海はきれいだが。

(評価:★2)

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