トラックの運転席から観た索漠とした風景、バックの音楽、浮浪者の登場、疑惑、こう感じさせて映画は始まる．浮浪者の食事代、妻ジョバンナが貰ったお金を、貰っていないと夫に言う．食事代の代償としての自動車の修理はインチキ、単に嘘、あるいは疑惑．そして夫の留守の間の情事．情事とお金に絡んだ疑惑、冒頭のシーンは、この様に映画全体を物語っていると思える．

どん底の生活から、裕福な男との結婚によって幸せを夢見たジョバンナ．けれども、毎日仕事に明け暮れるだけの、年の離れた夫との生活に嫌気がさしていた．さかりのついた猫を夫は猟銃で撃ち殺した．夫に隠れて情事を繰り返す二人にとって、逃げ出すことは自然な成り行き．ジョバンナはジーノと逃げようとするけれど、旅から旅へのその日暮らしの生活か、お金に不自由のない今の生活を続けるのか、迷ったあげくジーノとの旅立ちを躊躇った．ジョバンナは生活への不安、お金への執着を捨てきれなかった．

文無しの浮浪者ジーノと、旅芸人の男スペインとの列車の中の出会いは、お金にかかわる信頼を描いている．旅芸人は、一人の女に、情事に捕われない自由を、放浪者は、お金に捕われない自由を意味している．この二人の巡り会いは、ジーノとジョバンナの情事とお金が絡み合った出来事を、否定的に描いていると言ってよいのでしょう．

ミラノの街で偶然出会った娼婦のアニタ．ジーノとアニタは、本当に好きになってしまう．娼婦を本当に好きになる、それは人を好きになるのとお金は関係ない事を示し、情事とお金とは別な事であり、ジーノとジョバンナのお金に関わり合った情事を、やはり否定的に描いている．「お金でもめたと説明するわ」、ジーノを逃すための刑事への言い訳、アニタがこう言うのだけど．全く逆に、この出来事を言い表してるのね．

ジーノはアニタに全てを告白するのだけど、刑事につけられている事を知って逃げ出し、またジョバンナの元に戻った．ジョバンナに対する執着は変わらなかった．ジョバンナもまたジーノがやって来たとき、ベットの上で書き物をしていたが、お金の計算をしていたみたい、お金に対する執着は変わってはいなかった．お金かジーノか、一瞬迷い、その紙切れを丸めて捨てて、ドアを開けるのだけれど．

一晩中ジーノを探し求めたジョバンナ、ずぶぬれで自分を探し求めていた事を知ったジーノ．「私が素直にあんたの言うことを聞けばよかったのよ」、このジョバンナの言葉は、最初に逃げ出したとき、一緒に行けばよかったのだ、と、気付いたと言える．やっと二人の疑惑が消え、情事、そこにある真実が明瞭になった．と同時に、お金と情事に関わる殺人、その悪も明瞭になったと言えるみたい．

私はジーノの妄執をつかみ損ねてきたようなので書き足そう．ジーノが夫を殺すに至ったのはジョバンナへの執着からなのだけれど、殺人を犯してからのジーノの妄執は、それ以前とは異なるようです．犯行を犯した後、ジーノは良心の呵責に苦しみ他所へ行こうと言ったのですが、お金に執着があるらしいジョバンナの反対にあい、踏ん切りのつかない気持ちのまま店に留まりました．

ジョバンナが分からない．お金が欲しくて店を手に入れるためにジーノを利用して夫を殺したのだろうか、だとしたら悪いのはジョバンナである．と、私はこう考えてきたのだけど．この事は、ジーノ自身が同じように考えていたのではないか．だから、ジョバンナが保険金を手に入れたのを知って即座に分かれ、そして、娼婦のアニタに自分の犯した罪を告白する．付け加えれば、店の女の子に「おれって悪人か」と聞くのです．『おれは、金が欲しかったのじゃない．もしジョバンナが金が欲しくっておれを利用したのなら、ジョバンナが悪いのだ』これがジーノの妄執と言えそうです．

ジョバンナがお金が欲しくてジーノを利用して夫を殺そうとしたのかどうかは、最後まで明瞭にはならないけれど、ジョバンナの子供ができた喜びを語る言葉は、女としての幸せを、お金で幸せを手に入れることの出来ない幸せを、ジョバンナにとって最も大切なのはジーノであることを物語る．お金かジーノか、この妄執からジョバンナは逃れた、と、同時に、『お金が欲しくて自分を利用して夫を殺したとしたら、ジョバンナが悪いのだ』、と言うジーノの想いはフーッと何処かへ消えていったのでしょう． 『おれは、金が欲しかったのじゃない．ジョバンナが欲しくて夫を殺したのだ』、ジョバンナがお金欲しさにジーノを利用したにせよ、そうでなかったにせよ、この罪は関係ないと言えます．

ジョバンナが妄執からのがれて、ジーノへの正しい気持ちを自覚したとき、ジーノもまた自分自身の犯した罪を正しく自覚した、と言うことなのね．（一緒に逃げちゃったから正しくかどうかは怪しいけれど）