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[コメント] ノスタルジア(1983/伊)

異邦人として生きるタルコフスキーが何を思っていたか…やっぱり分かりづらいんですけど。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 タルコフスキー監督作品はとにかく難解なものが多いことで知られるが、本作はその中でもかなり極めつけに難しい…いや、難しいと言うよりも、雰囲気に浸りこませようと言う意味合いが大変高い作品と言うべきか。静かに静かに、落ち着いた色合いが交錯する中、独特の描写の美しさと、タルコフスキー監督作品に共通する水の描写に満ちた神秘的作品とは言うことができる。

 ただ、強いて言うなら、本作は『』(1974)同様自伝的な作品であろうことは言えると思う。祖国ソ連から亡命し、異国に身を落ち着けている今の監督自身が持つ寂寥感、そして自分同様一旦祖国を捨てていながら、それでも再び祖国へと戻り、そこで自殺した音楽家へのかすかな憧れ。社会主義国家が否定しているはずの聖画の持っている抱擁感。祖国とは違った点でだが、やはり狂気をはらんでいる西欧の人々の姿。すべてを壊してしまいたいと言う終末への憧敬と、それを防ぎたいと言う義務感…そして、全編を通して現れ、それぞれの登場人物に深く関わってくる水のイメージ。水は時に冷たく、人を拒絶し、時に温かく人を迎える。たった一人ぽつんと荒野の中に取り残されて考えているであろうそれらのイメージの豊饒さ。何もかもが美しく、そして寂しい。おそらくは監督自身が言葉で説明しきれない、そして整理のつかないイメージをここで表そうとしたのではないだろうか?

 美しく、そして寂しい作品である。

 そうそう。監督作品で毎度驚かされるカメラ・ワークであるが、ここでもそれは健在。アナログ機器でどうやって撮ったんだ?と思われる技術が山ほど出てくる。中でも部屋の中にたたずむエウジェニアを映した技術は「超絶」と言うべき技術でカメラ自体の位置を動かしつつ、露光を完璧にコントロールしつつ人間と風景を長回しのワンショットで撮っているのだが、一体どうやってあんなのが作れるのか、いまだに分からない。

 結論で言えば、本当にとんでもない作品である。というそれだけ。

(評価:★5)

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