[コメント] 伊豆の踊子(1933/日)
他の3作は「伊豆の踊子」だけでなく、同じ原作者の短編「温泉宿」の挿話も盛り込んで作劇していたが、本作−初映画化作品らしい−は、原作にないオリジナルのプロットをかなり追加している。これにより、とても明晰な筋書きを持った、すっごいメロドラマになっていると感じた。ちなみに「温泉宿」の挿話とは、酌婦(娼婦)に関する(上記3作で云うと、十朱幸代や二木てるみや石川さゆりが演じていた)プロットで、これはこれで「泣かせ」の見どころだったけれど、本作ではオリジナルの状況を加えて、巧妙に踊子−田中絹代と学生−大日方傳の悲恋の濃度を高めていると云えるだろう。
また、五所の演出が実に肌理細かく見せる。例えば、冒頭は芸者が逃げたと騒ぐ巡査−水島亮太郎の場面で、こゝで、彼が自転車をこぐ足のショット挿入があるが、こういった足ショットの挿入の繰り返し、旅芸人一行と一緒に歩く大日方の足ショットだとか。あるいは大日方のフラッシュバック、と云っても一瞬脳裏に浮かんだ踊子の田中や、その兄−小林十九二のバストショットを挿入するといった演出も効く。勿論、随所で繰り出される、田中と大日方を中心とする人物間の切り返し(ショット/リバースショット)の端正さは言をまたない。あと、温泉場の脱衣場の場面で、田中をアップ(肩から上)にした上で、着物を脱いだと分からせるショットがありドキドキした。当時の観客にとっては、かなり鮮烈だったろう。
シーン構成ということだと、序盤の鉱山技師−河村黎吉の、金鉱成金−湯川楼でのシーンがクロスカッティングされる繋ぎや、唐突に2階の欄干から道を行く小林に話しかける飯田蝶子が映って、次に飯田と情夫−坂本武の場面が繋がれる(飯田が坂本に「妬ける?」と何度も聞く)といった構成が上手い。さらに、飯田のお座敷で田中や小林が芸を披露している場面があり、酔っぱらった坂本が横暴な振る舞いに及ぶが、隣の部屋から河村が出てきて、坂本をたしなめる、河村と小林は知り合いだった、というのはご都合主義的ではあるけれど、驚きがある作劇で良いと思う。この後、湯川楼の主人−新井淳から、金が欲しけりゃ妹を渡せと云われた小林が、田中に湯川楼の内芸者になってくれ、と頼むという情けない展開と、湯川楼をなじりに行った大日方が主人−新井の真意を聞くというあたりの構成はちょっと出来過ぎのイヤらしさを感じてしまうぐらいだ。
そして、下田港の場面だ。こゝこそカット割りの肌理細かさは凄まじいものだ。あるいは、ミカンや柿といった果物、大日方から小林に帽子が渡され(これは原作にもある)、田中から大日方には櫛が、最後に大日方から田中にはペンが渡されるといった小道具の扱い(授受)の豊かさも指摘すべきだろう。いやそれらにも増して、田中も大日方も素直な素直な演技・演出がつけられているという点が良いと思うし(田中が泣きに泣く)、大日方に「愛している」とまで云わせてしまう造型には吃驚してしまうというか、感動する。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・冒頭近く、道の立札を抜く虚無僧は武田春郎。
・旅芸人には、兄−小林の妻に若水絹子。兄妹の母(若水の母か)が高松栄子、雇人の百合子は兵藤静江。
・小林に、立札を抜いたのはお前かとくってかかる村人の一人は仲英之助だ。
・湯川楼の主人−新井の息子は竹内良一。大日方の先輩でもある。河村に猟銃を突きつける湯川楼の爺は青野清。
・飯田と坂本が旅芸人を呼んだシーンに一緒にいる花岡菊子。
・大日方が泊まった温泉宿の客で五目並べをしようと云ってくる阿部正三郎。
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