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[コメント] 伊豆の踊子(1960/日)

本作の鰐淵晴子の美貌は邦画史上屈指と衆目の一致する処で、リアリティの欠如などこの際どうでもよく、何でこの娘がここにいるのだろうという不思議ばかりが蔓延する。そして見事な田中澄江
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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長身から繰り出す立ち居振る舞いの美しさも絶品であり、そんな彼女が着物を着崩しているのが痛々しい。いつもは何して遊ぶのと訊かれた答えが「牛や馬と遊ぶの」、そしてあり合わせのおはじき。いたたまれず叫びだしそうになる。少女歌劇出身の田中絹代とリアリティで比べても仕方がなかろう。

五所版からは「物乞いと旅芸人入るべからず」の看板が引き継がれているが、あちらは半分ギャグだったのに本作では告発に変わっている。五所版の、修善寺のゴールドラッシュ話で盛り上がる物語は取りやめ、原作にあった大学生のナルシシズム臭も取り払い、階級差を強調した悲恋作品に編成してその後のアイドル映画のベースとしている。異常な感じをまき散らす津川雅彦は、病んだ主人公の回復話である原作を想えば適役なのかも知れない。

中盤を田浦正巳の鬱屈(「男一匹の仕事じゃねえや」)、終盤を桜むつ子の意地でかっさらわせるのがとてもいい。病人を布団ごと物置部屋へ引っ張るのを手伝う津川を労わって桜の云う「とんだ恥をかきますね」が強烈。さすが田中澄江と唸らされる。丁寧なロケと美術も美点で、泥濘を下駄で走る津川が見事(下田の遠景にホテルが映っちゃっているのはいけないが、些細なことだ)。ベストショットはトンネルでの二人の追いかけっこと、直後のトンネルに響き渡る笑い声。ふたりの別れにおける船を追う横移動もとても美しい。

(評価:★4)

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