[コメント] 雨あがる(1999/日)
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黒澤明監督は晩年になっても映画づくりの意欲は衰えず、最後まで新作を作ろうとしていたらしい。それでいくつかの作品の草稿が残されていたと言うが(本作と『海は見ていた』(2002)があった)、それらは名もない市井の人物を描いた時代劇ばかりだったと言う。良い具合に力を抜いた作品を作りたかったのだろうが、結局は最終作は現代劇である『まあだだよ』(1993)となってしまい、これらの構想は結局実現されることはなかった。
1998年に黒澤明が亡くなった後になり、黒澤組が集まった時に、弔いを兼ねて黒澤監督が最も愛した映画を自分たちで作ろう。と言うことで、残った黒澤組スタッフたちの手によって一周忌に合わせて作られたのが本作だった。監督はこれが初監督作となる、長らく黒澤監督の元で助監督を務めてきた小泉堯史に依頼された(本作がデビューとなる)。
それで出来としては、そう言ったバックボーンなしで観ても充分なのびのびした作品に仕上げられている。場面の端々に確かにいくつかの黒澤作品に対するケレン味が感じられるシーンがあるものの(『どん底』(1957)や『七人の侍』(1954)の影響は確かに見て取れる)、全般的に日本の雄大な自然を素直に映し出して、それを取り入れた人間ドラマと言った感じ。何より映画に生活感が溢れているのが嬉しい。食べるだけのシーンでも、苦労して得た食い扶持を黙々として食べるシーンなんかは名場面。殺陣のシーンもシンプルながら見応えあり。無理して黒澤タッチにこだわらず、暖かみのある良作に仕上げられていた。確かにこれは弔いという意味でも正しい映画の作り方であろう。
思えば、本作は寺尾聰という役者を得たのが幸運だった。石原軍団の一員である寺尾はもちろん格好良い役もできるが、翌年に公開される『日本の黒い夏−冤罪−』(2000)などを観て分かる通り、しょぼくれた親父の役も見事にこなすことが出来る。藤沢周平原作の主人公となり得るのはこの人をおいて他に無かろう。一見冴えない親父に見えていながら、その太刀筋は鋭く、一旦事あらば考えるよりも先に行動する。こういう人間がほんと格好良く見えるんだよな。勿論彼を支える宮崎美子の演技も重要。優柔不断のためになかなか士官出来ない夫を黙って暖かく見守っている。能なしで三行半突きつけても不思議じゃない彼を支え続けるなんて、なかなか出来る事じゃないよ。ま、それだけの魅力があるからね。
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