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[コメント] 海底王キートン(1924/米)

後年の『キートンの蒸気船』がむしろ「暴風雨」の映画であることを鑑みれば、バスター・キートンの「船舶」映画決定版はこれだろう。特に前半部は船舶の映画的特性を突き詰めるような作劇だ。すなわち「乗り物」であると同時に「住居」でもある空間が海面という「不安定性」の上に成立しているという点。
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具体的に云えば、突然の船舶生活に伴うスラップスティックをたっぷり見せた後に「数週間後」云々のタイトルカットを挟んで、今度はその生活にすっかり慣れた様子を『文化生活一週間』や『電気屋敷』などの「からくり屋敷もの」よろしく演出するあたり。たったひとつの状況を利用し尽くしてギャグを量産してみせるのがキートン・スタイルだ。また、ひとりでに蓄音器が鳴り出したり扉が開閉したりする夜のシーンはまるでホラー映画のパロディ。当時はまだホラー映画と呼びうるような作品がほとんど制作されていなかったことを考慮に入れれば、これもまた凄い発想力だ。海底シーンの撮影、水中を帯状に貫いた日光が海底で揺れるさまの驚くほど真に迫った再現性についても特記しておきたい。

さて、私にとってキートン・ヒロインの首位はシビル・シーリーで揺るぎないが、キートンに負けじと大いにアクションを演じるこのキャスリン・マクガイアもかなりいい線を行っている。コミカルな所作に込められた感情が豊かで、セイラー服姿も可愛らしい。私はヴァージニア・フォックスよりも好きですね。こんなお嬢さんと二人きりなら漂流生活も悪くないなと思ってしまう。

ところで、キートンは無表情であるとよく云われるけれども、もちろんそれはその通りなのだが、その無表情は決して一種類ではない。彼は幾通りもの無表情を持っている。初登場シーンで突然「結婚したい。今日」と云い出すときの顔なんか凄いものだ。キートンのキャリアの中でも最も知能指数が低い表情ではないかしら。

(評価:★4)

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