[コメント] 地獄(1960/日)
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この作品はジャパニーズ・カルト映画として前々から噂に聞いていた。それにDVDが出ていることも知ってはいたが、なかなか購入には踏み切れなかったが、たまたま少し前に監督のもう一つの代表作『東海道四谷怪談』を観ることが出来た。その出来が実に素晴らしかったので、ついに購入に踏み切る。
東宝から分かれて出来た新東宝は会社が潰れる寸前にキワモノ映画を続発したそうだが、これもその一つ。確かに金はあんまり使われていないし、後半の地獄の描写はかなりチャチ。それでもそれを付記飛ばすが如き、イメージが凄い。
前半の現世での出来事は本当にこの世の地獄と言った描写で、これでもか、と言う程の不幸と毒々しさに溢れている。まるでメフィストフェレスのような田村の登場シーンは実にポイントを抑えているし、劣悪な環境の中、蠢く人々の群の描写は見事だった。結局誰も助かることなく死んでしまうという前半部のクライマックスは、まさに地獄絵図。これ程救いようのないストーリーを作ってしまうとは、ただ者じゃないな。たとえこれで終わったとしても『地獄』という題にはちゃんとはまってるよ。
それでこの本題である後半の地獄のシーンだが、チャチさが目立つし、ストーリーに整合性が感じられないのがちょっと残念。明らかに作り物と分かると言う点はおいておくとしても、もう少し地獄の描写に連続性を持たせてみたら良かっただろうに。それでも青一色に塗られた地獄のイメージは凄いし(この映画では“悪”を描写する際は必ず青いライトを当てるのは面白い演出方法)、嵐勘十郎演じる閻魔大王は大迫力。
キャラを見ると、天知茂のキャラが弱すぎたような気分がするが、多分『東海道四谷怪談』での伊右衛門役の見事なはまり具合のイメージが強すぎるんだろう。一方、二役をこなした三ツ矢歌子は清楚な役を上手くこなしていた。
それとこの作品を語る上では小道具の使い方の巧さも特筆すべきだろう。幸子が常に持っていた傘が最後まで目を惹くように出来ているし、天上院(このネーミングが秀逸だな)を舞台とした時に幾度となく登場し、その違和感をいやが上でも増す機関車の音と線路描写。まるで現世における三途の川のようだ。
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