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[コメント] ア・ホーマンス(1986/日)

松田優作は、どう撮れば自分を格好良く撮れるか、それを熟知していた人だったんだな。とりあえずこの作品は最後まで観ないと作品の真価が分かりません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本における俳優としては最高級の演技力を持った松田優作。そんな俳優が自分を主演とした映画を作ったらどうなるか?

 実際に俳優で監督になった人は数多いが、上手く行く人もいるのは確か。ただ優作の場合…かなり微妙だったかな?

 面白くないわけではないのだ。特に演出に関して言うならば、自分自身をどう撮れば良いかについては熟知していたのはよく分かった。

 この映画の基本はかなり物静かなのだが、時折爆発するような暴力描写が挿入される。そのアクション部分は、自分自身を見せるためにある。と言う割り切りで作られているので、この撮り方は正しいとは思う。

 ただ、松田優作と言う俳優の面白さは、それにとどまるものではないとも思う。この人の場合、「これは合わないな?」と言う役柄を演じたときにこそ、本当に凄い演技が引き出されるものだから。この人が名優と言われるのは、極限状態にあった時にとんでもない演技力を引き出すところにあるのだから。

 たしかに松田優作の主演作はそう多くはないが、その中でもどこかに狂的な部分を見せた時、普通に考える演技力を超えたところにあるものを見せつけてくれる。これこそが、松田優作が本物の名優たらしめた部分なのだから。

 然るに本作は、これまでの優作の最も格好良い部分を見せているのはたしかだが、そこから一歩踏み出したところまではいってない。上手くは作られているのに、どうにも歯がゆい印象がある。場面場面では、もう少し突き抜けられそうなところがあっても、そこまで行かずに終わってしまう。そこが残念。

 自分自身の演技の魅力はよく知っていたようだが、極限の演技をつけることが出来なかった。ここが監督としての限界だったのかもしれない。

 終わってみると、あのCMで有名なキャッチフレーズにもなった、劇中の山崎の台詞「スジ者でもねえ、イヌコロでもねえ、まして普通の素人さんでもねえ」がちゃんとオチを暗示しいたのが上手かった。その台詞が意味していた事に気づいた時には「こう来たか!」と、あまりの意外性に笑ってしまった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ダリア[*]

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