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[コメント] スペシャリスト 自覚なき殺戮者(1999/イスラエル=仏=独=オーストリア=ベルギー)

悪魔がそこに座っているという驚き。「不快な人は退席してください」。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







怒りを爆発させる傍聴人。ありませんを繰り返すだけの弁護人。興奮を抑えきれず空回りする検察官。何という光景だろう。取り乱す面々に囲まれてひとり冷静なアイヒマン。この被告は何を問われても、官僚組織の交錯による移送計画の混乱を謝罪する、という作戦で煙に巻き続ける。倫理的な議論は上官ヒムラーの指示ですからとかわす。不毛な国会答弁の見本のよう。

ラストに至って隔靴掻痒の議論はやっと核心に触れる。巨悪を認める被告。しかし職業人としてどうしようもなかったで済ませようとする。抗議の限界に触れる何かが告発者たちを怯ませるものが確かにある。

本作は内部告発制度の誕生の必然性を描いてもいるだろう。しかしそれも限界があるのだろう。倫理に反する仕事は辞めるべきだ、しかし全く倫理に反しない競争社会の企業、政敵の異論に囲まれない官僚などあるだろうか。組織と人間という限界状況が我々を怯ませたのではないだろうか。不協和音バリバリのノイズ系音楽が余りにも的確。

(評価:★5)

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