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[コメント] 雄呂血(1925/日)

「真面目に生きては駄目なのか…」と世の不条理を疎ましく映画によって思わせられるも、この映画の中をよく見回し映画の重箱の隅まで舐めまくると出るわ出るわ強烈な違和感の味と、映画の味、板妻の味。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「その町去れよ平三郎よ!澤登さん、活弁いいからちょっくら平三郎に言ってやってよ!その町去れって」と何度画面に向かって猛烈に語ったことか。しかーし、そんな猛烈なイライラを吹き飛ばしてくれる“狂気の桜が乱れ咲き”があるから、板東妻三郎さんの血気盛んな青年時代の集大成になり、偉大なるサイレント映画のモニュメントとなって邦画史に燦然と君臨するのだろう。

…いやいや、そうは言ったが、荒れる自分を正当化し、社会に対して憎しみを持っていながら乙女に目がない平三郎の生き様にはやはり強い違和感が。自分の道を見いだしてからでもなく、自分の理念や生きる上で必要不可欠の精神を学び体得しないで乙女にストーカー未満病的夢中以上って、真面目かぁ?また、自分を絶えず正直者と言い聞かせているのは病的であり、危ない人間の典型であり、一番扱いづらく近づきたくない男ではないだろうか。

ところがどっこい、そこに映画の味であり映画の威力がある。それつまり、どちらにも受け取れるように作った映画であり、一つの見地から作ってない大変視野が広い映画の旨味がそこにあるのだ。彼を時代に埋もれた悲劇のヒーローとして、そして反面教師として見ても楽しめる映画ってそうないのではないだろうか?「一度見たらハイ終わり」ではなく、絶えず変わる評価をするように組まれたプログラムが内蔵されたPCを脳に埋め込まれたような衝撃を受ける。(デンパ的に)詳しく補足するならば、この衝撃は一種のUFOに連れ去られてUFO内でインプラントを埋め込まれたのと同様の衝撃だった。

[まとめ]

見方を変えればこの映画、板東妻三郎さんの23歳の生温かい若気を具現化している。万人に訪れて言葉なしに去りゆく若さの「逞しさ」と「もろさ」が板東妻三郎さんの若さに憑依して銀幕に降臨したのだと思う。殺陣の早さがクローズアップされリスペクトされがちだが、私は、そこでそこに精魂込めて編み込まれた板東妻三郎さんの生き様に共感し、板東妻三郎さんの最期の訪れの早さに驚愕せざるを得なかった。

見終わってから暫くの間、刀から離れない、生きることを望む象徴でもある平三郎の右手のように、私も画面の前から離れることが出来なかったことを今、生々しく思い出す。

2003/1/21

(評価:★5)

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