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[コメント] リプリー(1999/米)

「ディッキーがリプリーに飽きる前に俺がこの映画に飽きた」と言った友人がいたが、いやいや悩める貧しき野心家の心情を描いたドラマとして悪くない。サスペンス描写が甘いのが難だが、男優陣、特にジュード・ロウの素晴らしさは特筆に価するものだ。
ナム太郎

「みんなどうして『太陽がいっぱい』のことばかり聞くんだい? この映画は私が好きなパトリシア・ハイスミスの『リプリー』を映画化したものにすぎないのに」

アンソニー・ミンゲラ監督も語っているように、この映画と『太陽がいっぱい』とは全くの別物だと考えていい。いやそもそも『太陽がいっぱい』がこれほど評価されているのは日本くらいで、他国での評価はそれほど高くないと聞いたことがある。だから関係者の中にもこの作品が「リメイク」だという感覚はなかったのではないか。そう思ってしまうほどの両者の違いであることをまず述べておきたい。

さて、この作品に関して言えば、悩める貧しき野心家の心情を描いた内面的なドラマとして素直に面白く観た。殺意を抱くほどに憧れた上流階級の暮らしであったが、結局他人は騙し通せても自分自身の心を騙し通すことはできない。そんなトム・リプリーの心情がうまく表現されていたと思う。

ジョン・シールの撮影も良かった。まったくイタリア観光局の依頼かと思うほどの素晴らしさで、この仕事により映画の格が上がった。

ただし、サスペンス描写が決定的に甘い。この監督は大きな風呂敷を綺麗にたたむのは上手なのだが、いつも大事な何かが抜けている。今回はそれ。だから特に後半部分に軽快なテンポが生まれず、少々重苦しい印象が残ったまま終わるから損をするのだ。これは本当に惜しいと思った。

しかし、男優陣の素晴らしさは特筆に価する。マット・デイモンが陰ならジュード・ロウは陽。フィリップ・シーモア・ホフマンもわずかな出演シーンながら重要な役柄で印象的だ。また女優陣もケイト・ブランシェットが相変わらずの好演をみせる。ただグウィネス・パルトロウ、彼女だけが苦しかった。十分に美しい人ではあるが、この作品に関してはその「美」の部分をジュード・ロウにさらわれた感があり可哀相だった。

まぁこのジュード・ロウなら、誰がマージ役をやってもそう思ってしまったのかもしれないけれど。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)草月

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