[コメント] ドラえもん のび太と鉄人兵団(1986/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
80年代の劇場版「ドラえもん」は大部分原作者の藤子不二雄(藤本弘)が脚本を書いているのだが、その中で最も著者らしさが出たのが本作だと思っている。
実はこの作品の設定は相当に複雑な上にほんのちょっと選択を間違えただけでキャラだけでなく地球そのものが滅ぶような綱渡りの攻防戦が描かれている。これまでの作品の中で最もタイトな話になった。
本作は地球に対する異星人の大規模侵略が描かれている。これまでの、そしてこれ以降の映画版では最もスケールの大きな話なのだが、それが町外れの一角だけで完結してしまう。地球人のほとんどが気づかれないままに終わらせるところに特徴がある。
終わってみるとスケールが大きいんだか小さいんだか分からなくなってしまうと言うのが面白くて、昔のジュブナイルってこんな感じだったと、当時のSFマインドをくすぐられる。これこそ私の世代にとってのSFなのだ。
この作品のSF設定でも、大変な分量が入っている。
一応数えてみると、宇宙からの侵略。ロボット帝国の存在。鏡像世界。創造時間に遡る時間ネタ。そして創造主の存在。特にこの世界と全く同じで生物だけはいないという鏡像世界の設定は大変興味深い。
これらはどれも60〜70年代の定番SF小説ネタで、多くの小説などで遣われているのだが、どれ一つ取っても一本映画が撮れるほどのボリュームのある設定で、それをまるごと全部放り込んでしまったここまで大盤振る舞いしたSF作品は他に考えられないくらいだ。 正直この設定使えば三本くらいの映画作れそうなボリュームがあって、到底一本の映画では収めきれない分量があるが、これだけのネタを一時間半に押し込めてさらりと受け流してしまうところに本作のスケールの大きさがある。
ただ、それだけ多量な設定の割に物語をすっきりまとめるのは無理で、物語が収め切れてないのだが、それは正しい判断だろう。
どんな物語持ってきても設定負けしてしまうし、複雑にすれば対象とする子どもが付いてこない。ジュブナイルに収めるためにはこの辺がギリギリだろう。深読みするとどこまでも深く潜れるが、表層だけでも充分楽しめる。SFマインドを受け取れればそれで良いし、そのマインドこそが新しい創造へと向かうものだ。
そして今振り返って思うのは、実写でもアニメでも良いから、こう言うSFマインドを持った作品を数年に一度で良いから作って欲しいと言うことだな。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。