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[コメント] 仮面 ペルソナ(1966/スウェーデン)

いつになく表現がシャープということは、それだけ切れ味も鋭い、と言えるかもしれない。鋭利なナイフ。血が吹き出ます。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







舞台のように簡素な室内背景。エレクトラ劇の女優。看護婦。語り続ける女。沈黙を守る女。どこか「似ている」二人。ひと夏の快楽。過去の告白と涙。愛撫。観察対象。テレビに映る恐怖のシーン。迫害されるユダヤ人の写真。恐怖や痛みを伴なう言葉。仮面を剥ぎ取ろうとするかのような手。演技を前にした歪んだ笑み。告発。演技。テーブル越しの対話。堕胎と母性の欠落。罪悪感。一つの昔話を通した2つの違う表情。鏡。入口の石像のひび割れた顔。

これらの様々な要素が、アイディアを駆使してひとつの物語として繋がっていく。 2人の女を通した、2つの人格の葛藤劇。

非情に似た「罪」を奥底に秘める2人が、一人はとめどなく溢れる言葉を抑えきれず、一人は頑として沈黙を守る。口を出る言葉は常に偽りへと向かうことを知っている「沈黙の女」にとって、言葉を発することは常に絶えがたい痛みを伴なう。その一方で、ことごとく静かな笑みで言葉を無力にされてしまうかのように、「語る女」は必死であがき続ける。しかし沈黙することが唯一の救いとでも悟ったかのように、「語る女」も何事もなかったかのように、舞台を片付けはじめる。

ともあれ全ての発端となっているのは「罪の意識」。そして罪の告白、懺悔で救済を願う人間に返されるのは「沈黙」のみ。表立っては描かれていないが、ここでも「神の沈黙」が意識の根底にあるように思える。しかし後のベルイマン作品において、そのテーマはさらに背後に隠れるということを考えると、本作がひとつのターニング・ポイントであるように思えたりもする。

いつになくアイディアに溢れている。まるで「これは映画だ」と、最初と最後の映写機のカットとフィルムの挿入で断わりを入れて、その中でさまざまな実験を試みているかのようだ。ヌーヴェルヴァーグの影響ということらしいが、ベルイマンがこれだけあからさまに「映画」というものを前面に出しているのは珍しい。それにしても冒頭に出てくる子供が、ラストに再び現れて実は・・・というのは怖かった。女優の子供なのだが、この物語を通過した時点で堕胎で命を奪われた赤ん坊ともダブって見えてくるので、なおさら怖い。

でもやっぱり一番怖いのはリブ・ウルマン。無言でひたすらアップというだけでも怖いのに、口端を歪めて笑わないで下さい・・・怖過ぎです。[4.5点]

(2002/12/8)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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