コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 土と兵隊(1939/日)

兵隊たちが歩くショットがこれでもかと出て来、乾いた土だけでなく、水田などの泥土、あるいは泥水も含めて、いや爆弾が炸裂したあとの土煙や、機銃掃射によって飛ぶ土塊(つちくれ)といったものも含めて、土は夥しく画面化されている。
ゑぎ

 しかし、映画に映すべきは運動なので、土を映す画面は、多くは足を映した画面となる。よって、本作は、私には「足の映画」だと感じられた。

 クレジットバックは船の舷側から撮った海、波しぶきのショット。劇伴は「海ゆかば」だ。クレジット開けは船内での上意下達の場面で、大隊長から中隊長、小隊長、班長(下士官)へと指示命令が伝わるのを、フルショットで簡潔に繋ぐ。主人公の班長−小杉勇は本作では伍長で、彼と10数名の兵士たちの動向が描かれる映画だ。ちなみに、この冒頭の船内のシーケンス中、かなり広い馬房に軍馬が沢山繋がれている移動ショットがあったのには驚かされた(当然ながら、馬も船で運ばれたのだ)。その後、また海のショットが挿まれたと思うと、いきなり草原を走る兵士たちのシーンが来る。上陸場面が端折られているのだが、もしかしたら船内のシーケンスも、もっと長かったのかも知れない(私が見たのも30分近くカットされたバージョンです)。

 いきなり草原を走る兵士たちのシーンは、唐突な戦闘シーンでもある。こゝから、戦闘と行軍が延々と描かれる映画だ。土手。土手下の道。雨。雨中の塹壕の俯瞰移動。つづら折りの道。兵士の足だけでなく馬の足も繋ぐ。馬車の車輪から左へパンして景色を見せる。水。泥水の中、歩く足をローアングルで捉える。穴に溜まった水(クリーク)にはまる兵士。泥の中を歩く足。班長の小杉が、夜、靴下を脱いで足を見て「これでよく歩けた」と云う場面があるのも「足の映画」として象徴的だろう。

 そして、丘のようなロケーションにある家屋の壁の穴(トーチカみたい)から機関銃で銃撃してくる敵と対決する場面以降の長い戦闘シーンの迫力は特筆すべきと思う。この家屋を撃ちまくって崩壊させた後も、丘の中腹に本物のトーチカが待っている。もう詳述はしないが、本作の戦闘描写の凄まじさは、日本映画史上、有数のものだろう。現在にいたるまで、これを超える野戦シーンの例が、私には思いつかないぐらいだ(そんなに沢山の戦争映画を見ているわけでもないので口幅ったいですが)。例えば、日本軍側の重機関銃による数々の銃撃ショット(曳光弾の射撃まである)が、臨場感半端ない。また、敵の兵士は序盤から全く映さず、常にどこからか飛んでくる銃弾、砲弾、といった演出で統一されていたのだが、トーチカ攻略後、その内部にカメラが入り(小杉らが入るからだが)、ぐるっとパンとティルトして、敵兵士の様子を見せる、という演出もよく考えられている。

 あと、私の見方・感じ方のせいかもしれないが、全体に『五人の斥候兵』以上に厭戦的に感じる観客が多いのではないかと思った。長い戦闘の後、崩れた建物をパンして川岸を映す場面では、川に浮かぶハスの花を見ながら「生きてるってことは有難いことだ」と云う小杉の科白があり、次に、ヤギを持った2人の兵士の会話になって「戦争は人類の絶対であって、ヤギの絶対ではない」「それはお前の感傷だ」「しかし、感傷があればこそ人生は美しい」といったやりとりがある。いやこれら以上に、長い戦闘が始まる前の夜の兵士たちの場面で「俺たちは一体なにをしているんだろう」という発言があるのも心に残る。この科白の直後に、放屁の音が聞こえるのは、このような発言を一笑に付す(否定する)ものと受け取れると同時に、戦争自体に放屁しているようにも受け取れる。放屁の後、「毒ガスは敵の方へやってくれ」というジョークで締めるのも上手い。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。