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[コメント] 大人は判ってくれない(1959/仏)

「俺を抉らないでくれ!」ほんと、そう言いたくなる作品でした。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 後年ヴェテランの冴えで映画作りをしていたトリュフォー監督も、初期の頃はゴダールと並ぶヌーヴェルヴァーグの雄とされてきた。それは本作を観るとそれもよく分かる。実はトリュフォー監督、こんなにゴツゴツした作品を作ってきたんだな(事実本作はヌーヴェル・ヴァーグを代表する一本に数えられている)。

 ゴダールに代表されるヌーヴェルヴァーグの大きな特徴はリアリティにこだわらずに現実を描くことにあると私は思ってるが、トリュフォー監督の場合はもうちょっと違い、人間の繊細な感性をとことんまで追求するところにある。だからストーリーに起伏がないが、その分主人公の行動に表れる精神的なものはビリビリと伝わってくる。

 本作は思春期の子供の苛つきが描かれているが、多く人はこういった苛つきを感じたことがあるのでは無かろうか?しかし、大抵の場合、それを抑えて学校ではよい子であり、その分、どこかで発散するような生活を送ってきたことだろう。その時代の精神は論理でははかれない。自分の感情の持っていき場所が分からないまま、子供のような行動を取ってみたり、大人的な背伸びをしたいと思ったり、大人はみんな汚いと思い、そこに行きたくないと思いつつ、それでも着実に大人になっていく身体を誇りに思ったり…とたいへん複雑だ。

 それを衒いもなく、そのままトリュフォー監督は映画化してくれていた。

 ここに登場するアントワーヌは常に苛ついている。大人に対し、社会に対し、そしてその裏返しとして自分自身に。その中で彼が求めているのはたった一つ。何からも自由であることだったはず。しかし社会生活を送る上で自由とは存在しない。

 それは何も子供だけじゃない。金がなければ食べていけない大人だって…いや、大人の方が遙かに自由はない。

 しかし、子供にはそれが分からない。彼らにとっては自分の世界が全てだから。だから分別や道徳など、お仕着せのものとしか思えないのが思春期の子供と言う奴だ。大人はみんなロボットか何かのように見え、自分を抑圧する人間味のない奴らばかり。真剣に何かをしたい。でも何をやっても中途半端で、結局一番なのは気晴らしになってしまう…

 …正直、これを観ていると、自分自身の決して恵まれてるとは思えない(と言うより自分ではそう思いこんでいた)思春期時代を抉られてるようで、何だかもの凄くイタイ作品になっていた。

 何でも本作はトリュフォー監督自身の自伝のようなものなのだそうだが、普通こういうのって大人になったら記憶の片隅に押し込んでしまって思い出したくもないはずなのに、トリュフォー監督はよくもこんなものを大人になっても持ち続けられたものだ。ほとほと感心する。

 以降アントワーヌ少年のその後の人生は監督のライフワークとして1987年の『逃げる恋』まで5作品が作られる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus ボイス母[*]

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