[コメント] SHOAH(1985/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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アウシュビッツで何があったかはそれなりに知っているつもりだったが、散髪屋の告白の前には生半可な知識など吹き飛ぶ。知らない話には圧倒される。月5000人が餓死したワルシャワ・ゲットーの凄まじさは想像を絶する。劇映画では決して近寄れない世界だ。40万人が殺された(トラックのなかで!)ソビボルという片田舎、そのいかにも平凡な風景は写されるだけで、その意味するものの深淵が浮かび上がってくる。撮影は決して上手くないが、撮っただけで良しとせざるを得ない。3部冒頭に歌われる間抜けな収容所賛歌には眩暈がする。
ポーランド人とウクライナ人の扱いの微妙さが生々しい。これらはナチ告発というスタンスからはみ出ており、正にドキュメンタリーである。生存者シモンを取り囲んで自説を次々と開陳するポーランド人に一瞬困った顔を見せるシモンのリアルなこと。ウクライナ人は兇暴な兵士だったと元ナチから説明されるばかりだ。昨今のウクライナ情勢に微妙な影を落としている反ロシア派のナチ協力の「歴史」がここで顔を見せている。
内容の濃さゆえに長さを感じる暇はないが、しかし幾らなんでも長すぎる。インタヴューは通訳の過程を省略してしかるべきだ。編集にリズムがないのも辛く、一流のドキュメンタリー監督との差異は如何ともしがたい。ビアホールで働く元SS中尉へのワイズマンの「インタヴュー」はハプニング寸前。「正義」に肩入れするこの映画は、一歩引いて考えたいという防衛本能を煽るところがある。この監督の評価は『イスラエル国防軍』など他の作品を観るまで保留したい。
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