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[コメント] BROTHER(2000/日=英)

北野映画特有の“間の取り方”に失敗してしまいましたね。(レビューはちょっとだけ暴走)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 日本の映像作家でむしろ海外での評価が高い監督というのが何人かいる。最近では逆に海外で評価され、初めて日本でも評価されるというパターンも増えてきたが、その最も顕著な例は監督だろう。ビートたけしとはお笑い芸人であり、彼にとって映画は素人の手すさびにしか過ぎないという評価を国内で叩かれながら、次々に海外で受賞。そしてようやく監督北野武という存在に気づくという…

 …人のことじゃない。これは私自身の事だ。「たけしの映画?お笑いだけじゃ満足できないのかよ。どうせ素人の撮った作品じゃねえか」観もしないうちにそんなレッテルを貼っていたのだが、偶然にTVで観てしまった『キッズ・リターン Kids Return』(1996)で思い切りはまりこみ、全く正反対に大ファンになってしまった自分。遅すぎたはまり方で、実は劇場で観たのは本作が最初だった。

 しかし、これはちょっと失敗。最初の劇場鑑賞作としてはこれは適切な作品ではなかったようだ。

 話自体は監督の得意とする暴力もので、『ソナチネ』(1993)あたりの演出と似通っている作品。相変わらず“静”→“動”の一瞬の切り替えは監督特有の演出で、それがここでもきちんと出来ているのだが、問題はそれがアメリカで行われると、単なる行きすぎた暴力ものとなってしまい、日本特有のハラキリシーンも、なんか全然締まらず。

 北野監督の暴力作品というのは一つ似通った部分がある。このたとえが適切かどうかは分からないが、相手が相撲を取ろうと土俵に上がってきた所を、剣道着姿で現れ、相手がぎょっとした所をいきなり面を打つみたいなもの。要するに相手と自分との間にある暗黙のルールを簡単に破ってしまうと言う点があるんじゃないかと思う。『レイダース 失われた聖櫃』(1981)でジョーンズが、段平をぶんぶん振り回す敵に対し、いきなり銃を引き抜いてぶっ放すシーンがあったが、それが連発して出てくるようなものだ。それが北野監督作品の最もユニークな部分であると共に、魅力でもある。

 多分、その部分がこの作品では上手く機能してくれなかったのが本作の最大の失敗点。

 思うに、ギャング映画とヤクザ映画というのは根本的に撮り方が違うんじゃないかな?遠距離から銃で多数を狙撃するギャングものと、顔つき合わせて一対一でドスで応酬するものの違いと言うべきか(だから北野映画には拳銃だけしか用いられないことが多い。しかもほとんどゼロ距離射撃ばかり)。やはり北野監督は、日本を舞台としてこそ、その真価を発揮できると再認識。監督もその辺割り切ってくれたからこそ、この後で『座頭市』(2003)という傑作が撮れたのでは?(チャンバラこそ、一対一のゼロ距離の応酬だし)。

 ここではそれを敢えて日本的なユニークさとして割腹させてみたり、アニキを立てるために自殺して見せたり。と言う所に置いてみたんだろうけど、それもユニークさというよりはギャグに見えてしまう所がなんともかんとも…

 それと北野映画ではこれまで絶妙のはまり具合を見せていた久石譲の音楽もここでは上滑りしっぱなし。哀愁漂うメロディが見事にかみ合ってない。特に成り上がっていくシーンが何故かもの悲しい調べとなっているため、違和感を感じさせる。腕組みしてふんぞり返ってるシーンの何が哀愁なんだか。

 それでもストーリーと言い、演出と言い、概ねはこれまでの北野映画を踏襲してるため、安心して観られる作品であることは確か。監督作品が好きだというのなら、抑えておくべき作品ではあろう。

(評価:★3)

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