[コメント] 白人酋長(1922/米)
しかし、その視線の先には木のゲートで、扉が開き、捕虫網を持ったキートンが飄々と入って来る。これは出オチのようなギャップのギャグだ。キートンは白い蝶を追う。インディアンたちも見ている。画面奥から急に手前に走ってくるキートン。インディアンたちも追いかけてくるが、キートンは逃げたのではなく、網を振り下ろす。捕ったのはハエ。こゝでハエをルーペで拡大するミタメ画面が挿入される。ロングショットで飛ぶ虫を目で追うキートン(画面の中に虫は映っていない)。網は酋長のロバーツに振り下ろされる。これも面白い。
この後、前半は、捕まって火あぶりにされかけるキートンの脱出を描くパートと云ってよく、後半は、白人酋長となったキートンも加わって、石油会社と対決するパートとなる。インディアンに捕まったキートンは、地面に突き刺したポール(木の棒)に手を括られるが、なんなく棒を引き抜いて、こゝも逃げるのではなく、場所を変えることで、焚き木を持ったインディアンを右往左往させるというギャグになる。こゝで、キートンとインディアンの男が見つめ合う切り返しの繋ぎがあるが、かっちりとした切り返しは本作ではこゝだけだ。
私が最も特記したいのは、キートンとインディアンたちの追いかけ合いの中で、いきなり思いもかけないような高い岩の上のロケーションがロングショットで繋がれて、唖然とさせられる点だ。これが3回ぐらい出て来る。もともとインディアン居留地は平原にあるイメージだったのだ。これはある種の暴力的なカッティングと云うべきかもしれない。先入観が完全に壊される衝撃がある。高所のつり橋での運動や、山の斜面を駈け下り転げ回るキートンの身体能力も凄いものだが、この思いがけないロケーションに転換する構成・編集の方が驚嘆してしまう。勿論、高い岩場から突き落とされたキートンが毛布をパラシュートのようにして落下するロングショットや、凄い斜面を駈け下りたキートンがワイヤーワークで木にジャンプするといったアクションの造型にも瞠目する。
あと、毛布をパラシュートのようにして落下したキートンが、白人が建てたと思しき家の煙突から中に侵入し、石綿(アスベスト)の布を服の下に着るという段取りを見せるのは不思議な演出だ。まるで、この後、再度インディアンに捕まり火あぶりにされることを予期していたかのようだが、念のためということか。しかしこれによって、火あぶりにされても平気な(煙草を喫っている)キートンの画面を導く。それを見て、インディアンたちがひれ伏す、という展開だ(キートンが白人酋長となる展開)。さらに、酋長−ロバーツの娘−ヴァージニア・フォックスが燃えないキートンを見つめて、ときめいた表情をする寄ったショットがあり、これが、ラストに再登場したフォックスとキートンとの、いつもながらの有無を言わさぬエンディングに繋がっていく。
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