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[コメント] クレーヴの奥方(1999/仏=スペイン=ポルトガル)

作品論、並びに映画に要求する新たなる現代性についてのささやかな覚書。
町田

中間字幕の挿入によって空間・時間の推移を説明し、また交通事故などの派手な動性を極力画面枠外へ排除することによって、『クレーブの奥方』は、古典に相応しい上品な静性を獲得すると同時に、ポイントとなる二箇所のささやかな動性を、致命的な激性へと昂めることに成功している。

ひとつはアブルニョーザの事故報道を聞いたときの夫人の悲鳴で、もうひとつはベンチで待ち伏せたアブルニョーザの視線からの未亡人の遁走であるが、殊に後者では、公園の鉄柵が効果的に配されることで、えも云えぬ映画の醍醐味が醸し出ている。

また陰翳を強調した屋内の情景に、時折呆やけた遠景の緑が織り重なる様などは、まるで印象派絵画を見ているようで、肉眼では捉えきれぬ美しさを捉えることこそが、写真芸術の真の目的であろうことを、改めて確信することが出来る。

キアラ・マストロヤンニは気高く美しく、アブルニョーザとの対照はまさしく美女と野獣であったが、骨子となるのは内なる神と悪魔との抗争で、それは如何にもカトリック的な題材だ。モラルハザートが叫ばれる21世紀に於いて真にスリリングな題材とは、卑語の飛び交うストリートギャング共の暗闘などでは更々に無く、本作が取り上げたが如きものであるはずである。我が日本に於いても当然然りである。『いつか読書する日』は素晴らしかった。『ゲルマニウムの夜』は惜しかった。今こそ本腰を入れて、「藪の中」の栄光は一時記憶の外に追いやって、”奉教もの”の映像化に取り組むべきときではないだろうか。

(評価:★5)

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