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[コメント] ・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・ JUST TWO OF US(1988/日)

バブルはバブルなりに人は苦労していたものだ。懐かしい古村比呂の似合わないキャリアウーマンがかわった味。話は平凡だけどちょっと好きな作品。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キャリアアップしたいが「会社は育ててくれない」、結婚までの腰かけと同じ待遇が不満な古村比呂。男女雇用機会均等法以前の訴えの記録だった。土曜出勤して珍しいと云われているのは、当時すでに週休二日だったのだろう(市役所はまだ土曜は半ドンだった)。初期のパソコンが呻いている。古村は見合いを勧められて10年早いと嫌がっているが、いやいや参加。

喫茶店で秋野太作が禁煙パイポ咥えて仲人とも云えない仲介。荒川線沿線でクリーニング屋している古村の叔父で、相手の近藤敦は店のお得意。「亭主のパンツ洗えるようでないと駄目だ」と云いたいこと云ってトレンディドラマを寅さんにして去っていくのだが、この科白は(よくある科白だけど)なぜか勉強になった。女が自分を許すのは、この男のパンツ洗ってもいいと思える相手だけであり、ここで冷徹な境界線は引かれ、その対岸にはお父さんのパンツ汚いと洗濯機を前に箸ではさんで手で触れない朝シャンかかさぬ娘の図があるのだろう。

近藤は古村を一目で気に入るらしく、ここで舌なめずりする彼の口のアップがインサートされるが本作最大の失敗ショットではなはだ品格を欠いた。まあ男なんてこんなもんだと近藤に可愛げを見せたとも思えるが。近藤は会社トークで一生懸命つなぐも、見合い自体を否定している古村はツンケンして解散。しかし子供の怪我救って病院というベタ展開で再会。

近藤は再々会社に電話いれる。「入れるだけでいいんです」とは広告ベンチャーの社長とは気楽な稼業と思いきや、商売かねて参加した玉置浩二のパーティに参加して恥かかされる。「主な取引先は電通ですか博報堂ですか」と聞かれて「タンポン社です」と寒い冗談で返し、営業トークをぶちかます。

なんたるブルシットジョブだろう。仕方のない仕事しているんだなあという感慨がある。渋滞の渋谷スクランブルで喧嘩。「もっと気の利いたジョークはないの」。警察で始末書。近藤は東京駅のカプセルへ。「どこまで正直なのよ」とタクシーから降ろして古村は去る(酔った近藤が這いまわる橋の欄干がひどく印象的)が戻ってきて裃を脱ぐ。

古村のアパートでひと晩過ごして近藤が荒川線で去るのを見送る終盤は、安アパートの風情が良く、飯たけて笑って中断するセックスが微笑ましい。買出しにいったコンビニで強盗犯人が潜んでいるという件はこの終盤になにしているのかよく判らなかったが。

古村比呂が懐かしい。この人はイモっぽい田舎者のキャラであり、本作のエリートサラリーマンには、無茶している、という無意識に吐き出される溜息まじりの造型がある。いい配役なのだが、他に準拠せずただ本作だけ観てそのニュアンスを受け取るのは難しいのかも知れない。

近藤は好演で、60年代の男優がこの手の浮かばれないサラリーマン役でみせた悲哀とはちょっと違うリアリティが感じられる。当時は『戦メリ』オーシマの俳優より素人、ミュージシャンのほうが演出してみたい、という有名な発言が業界で一定の拘束力を持っていて、目指されたのもそれだと思われる。物語は、女性に振り向いて貰うには近藤みたいな美男子でもこんな苦労をするのだ、という感慨があった。タイトルはふたりとも会社でうまくやっていけないということか。

(評価:★4)

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