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[コメント] 今晩は愛して頂戴ナ(1932/米)

パリの屋根。セーヌ。朝の街のショットを繋ぐ。清掃する人たち。靴屋のトンカチ、刃物研ぎ、布団叩き等とリズム(音)が重なっていく。また、唐突に煙突へのズームインがある。
ゑぎ

 ズームの活用は、同じマムーリアンのミュージカル映画であり、彼の映画デビュー作『喝采』では無かった演出だ。本作ではこの後すぐに窓の女性にズームインするし、中盤の狩猟シーンでは、猟犬が集まっているショットでズームアウトしたり、駈ける犬からのズームアウトもある。

 画面の特徴としては、ディゾルブ繋ぎの頻出もあげられるが、これは『喝采』でも多用されていたものだ(というか、この当時の世界的な流行でもあるだろう)。『喝采』との比較ということでは、本作は『喝采』ほどにはカメラを動かさない(いくぶん落ち着いている)ということも云えると思うが、しかし、ディゾルブ繋ぎは、建物(お城の塔など)の窓への移動ショットなんかとセットで使われている場合も多く、時空の超越を美しく見せる術として確立している。

 あと、狩猟シーンの中で低速度撮影(早送りのような画面)と高速度撮影(スローモーション)の両方が使われており、特に高速度撮影は「静かに下がりなさい」という科白の後に挿入される演出で、ギャグになっている。この辺りの処理は公開当時は目を瞠るものがあったのだろうと推測するが、今見ると、どうってことのないアイデアだ。ただ、舞台出身の演出家だったマムーリアンが様々な映像表現を模索していたのだろうと思わせられる。

 さて、主演はモーリス・シュヴァリエで、ジャネット・マクドナルドとのコンビ作だ。こゝでもシュバリエはカメラ目線のニヤケ顔を連発し、私はどうもこれが苦手なのだが、有名曲の一つ「ミミ」のシーンで、マクドナルドと正面バストショットのカメラ目線での切り返しになるところは、ぐっと映画らしくなる。楽曲では「ロマンチックじゃない?」が一番有名だと思うが(ジャズスタンダードとしてもそうだし、『麗しのサブリナ』での使用が忘れ難い)、この歌がシュバリエから始まって、タクシー運転手やその客も唄い、列車内で軍人たち、軍人の行進時の合唱からジプシーの少年、そのバイオリンの音色からお城のバルコニーのマクドナルドに唄い継がれるシーケンスは、前半のハイライトと思う。

#備忘でその他の配役等について記述します。

・シュバリエや町の人たちに借金のある貴族ヴィコンテにチャーリー・ラグルス。公爵はC・オーブリー・スミス。伯爵のチャールズ・バターワース。2人にも歌唱シーンがある。

・オーブリー・スミスの姪がマーナ・ロイで、シュバリエにモーションをかける。

エリザベス・パターソンエセル・グリフィーズブランシュ・フレデリシがいつも3人でいて「マクベス」の魔女みたいと思った。マクドナルドのおばさんか?

(評価:★3)

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