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[コメント] 浅草の灯(1937/日)

松竹大船による大正浅草オペラの回顧は、夏川大二郎の格好いい画家と上原謙の粋なシルクハットでもって、大正モダニズムの若さを羨んでいる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ベアトリ―チェがベアトリ姉ちゃんになった大衆化を本作は正確に記録するのだろう。松井須磨子のカチューシャの舞台を映像で観たことがあるが本作の冒頭みたいなもので、全員総出で歌うたって宝塚みたい。杉村春子(映画初客演とのこと)の何かすごいカルメンの歌とダンスの後で客席と乱闘になり「見世物じゃない芸術だ」と劇団側が叫ぶ件も、大人が子供を揶揄っている印象がある。半分尊敬半分揶揄の調子。

だが半面、この大船という大人は浅草という子供を羨んでいるだろう。夏川大二郎の格好いい画家と上原謙の粋なシルクハットでもって、大正モダニズムの若さを懐かしんでいる。37年は非共産党の社会民主主義者にも治安維持法が適用された人民戦線事件の年。人を匿う物語はそれだけで生々しいものが感じられる。

匿われて二階の窓辺へ出て上原を見送る高峰三枝子、振り向くが手を振らない上原、それを高峰の背後から眺める夏川。三角関係のとても映画的な無言の描写が美しい。高峰の物干し台でのベアトリ姉ちゃんのハミング。そして浅草脱出劇で映画は終わる。

(評価:★4)

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