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[コメント] 魂のジュリエッタ(1965/仏=伊)

色彩を手に入れたフェリーニ監督の本領発揮作です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 監督の作品の場合、評価される作品はモノクロで撮影された『』(1954)とか『8 1/2』(1963)(内容的に本作と通じるものがある)あたりが多いのだが、私はむしろ表現能力においては色を手に入れたお陰で監督自身が持つ心象風景の自在さが遙かに増したように思える。『フェリーニのアマルコルド』(1974)の自然を追う美しさもあるが、むしろ監督の真骨頂は本作にこそあったのではないかと思ってる。

 カラー撮影は既に1930年代の終わりからあったが、金がかかりすぎることと、色が付くと言っても、基本的に原色を鮮やかに発色するテクニカラーだと、思ったようなものが撮影できないと、実に1960年代になってもカラーに踏み切れない監督はかなり多くいたが、その中で色を手に入れたお陰で大きく表現能力を伸ばした監督もいる。その中でもフェリーニ監督ほど自在に色を使えた監督は珍しいと言えよう。

 テクニカラーの発色の良さを活かし、白を基調とした画面の中に数々の原色を配することによって見事に心象風景を映像化してくれた。

 ここに出てくるのは現実と妄想の境界が曖昧になったジュリエッタが見る風景だが、普通に家においてある電気器具や鏡などが、何かの拍子に悪夢へと変わっていく。普通の家の中に、サーカス団が隠れていたり、鏡の中に自分の子供時代があったりして、タルコフスキーの『』(1974)を先取りしたような内容はとにかく、「凄い」の一言。

 それに色彩のコントラストがとにかく鮮やか。夫に忠実なジュリエッタ自身を示すかのような真っ白の家の中に、突然原色のコントラストを持ったピエロが出てきたり、真っ黒な棘だらけの空中ブランコが出てきたりするのは、どきっとさせられるのと同時にそのはまり具合は本当に見事。心象風景としては、大変面白い手法を使ったものだ。

 映画の一つの強みとして心を映像化する。と言うことがある。それこそ映画の黎明期から繰り返し繰り返し試みられ、今もなお、試行錯誤が続いている、悪夢映画と言っても良いが、私にとっては最も魅力的なジャンルだ。ここに表されてるテーマは現代でも全く古さは感じられない。

 マシーナも『』とは全く違う、中年女性の役を見事に演じていた。『』のジェルソミーナ同様、精神的な均衡が崩れ落ちようとしている時の表情はどきっとするし、フェリーニとの相性最高のニーノ=ロータのスコアも見事だった。

 本作が素晴らしい作品であることは間違いがない。ただストーリーはほとんど無いに等しく、観てるうち、途中ちょっと眠気を覚えてしまったため、最高点はとりあえず付けないでおこう。『』同様、後で是非観直してみたい。多分観る度に点数が上がっていきそうな予感はある。

(評価:★4)

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