[コメント] リスボン物語(1995/独=ポルトガル)
クレジットバックはドイツからポルトガルへの自動車の旅、ハイウェイを行く自動車のフロントガラスから撮ったショットを繋ぐ。さまざまな風景。夜も昼も。そこに主人公フィリップ−リュディガー・フォグラーのモノローグが入る。途中、エッフェル塔が見えたりする。この冒頭から実に心地よい画面だ。
タイヤがパンクして、車から降り立った足は、左足が怪我でギブス。杖をつく。フィリップはタイヤ交換しようとするが、スペアタイヤがは川(?)に転がって行く。こゝも私には予想外で可笑しかった。彼は、青いシャツを着ている。西部劇みたいな青い空。自動車は赤色だ。しかし、全編、青色が意識して使われている。私は、本作もまずは、圧倒的な色遣いの映画だと認識する。
リスボンの訪問先、友人の映画監督フリードリヒ(フリッツ)の部屋へフィリップが初めて入る場面。こゝのミタメのショット、ゆっったりとした移動撮影がまたいい雰囲気だ。フィリップは録音技師で、彼は、フリッツが製作中の映画のために呼び寄せられたのだが、来てみると、フリッツは不在。というワケで、残されたモノクロフィルムの断片を参照しながら効果音を作るフィリップが描かれ、終盤、満を持して、フリッツ−パトリック・ボーショーが登場する、という構成を取る。
本作もヴェンダースらしい映画に関する考察の表明が溢れている作品だが、しかしそれは(少なくも私にとっては)刺身のツマ(要するにオマケ)みたいなもので、画面として楽しんだのは、待ち人登場までの期間の中で、さまざまな人々との交流が描かれている部分、あるいは、リスボンの坂や階段の多い街並みと、高低の感覚を上手く使った演出だ。
例えば、ビデオカメラでフィリップを撮影する子供たち。洗い画質のビデオ映像の挿入。子供たちに効果音を作って聞かせるシーンでは、カウボーイの食事風景を音で想像させる。この場面から、床屋で髭をあたるフィリップに繋ぐカッティングは、「西部劇」という科白に続いて床屋が繋がれた『ミステリー・トレイン』を想い出した。
あるいは、部屋で編集作業をするフィリップが、隣室から声が聞こえて怪訝な表情をするシーン。カメラが右へ回り込む移動をするのだが、実にスリリングな演出だ。隣の部屋にはなぜか楽団(マドレデウス)が出現しているという見せ方。女性ボーカル−テレーザが美しい。彼女の斜め後ろからのカットと青い光。見つめるフィリップとの切り返しもイマジナリーラインが微妙な繋ぎでスリリングなのだ。
さて、上で刺身のツマみたいなもの、と書いてしまった、映画への言及部分だが、何と云っても本作が貴重なのは、マノエル・ド・オリヴェイラが唐突に登場する場面を有することだろう。神の存在や宇宙の認識、そして映画と瞬間の幻影などについて語った後、モノクロフィルムの中にも登場し、指でアングル決めのポーズ(指で四角いフレームを作る所作)をした後、なんとチャップリンの真似まで披露してくれるのだ。
#他に青色の使い方で目立つのは、フィリップが録音ハンティングする際に被っている青いバイザーキャップ、路面電車の中に乗ってくる少年の持っている青いビニール袋、フリッツが使っている壊れた青いBMWイセッタ。
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