コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] みんなのいえ(2001/日)

三谷幸喜に期待してしまうもの
FRAGILE

 若い夫婦が家を建てるに当たって、設計を知り合いの若手デザイナー、建築を妻の父親の大工に依頼しお互いの衝突をくぐり抜けて家を完成させるまでのお話。

 全体的にオーソドックスで良質なコメディという印象。とはいえ、コメディという言葉から連想されるほど馬鹿笑いできるところは少ない。それは、ストーリーが家を建てることから巻き起こるデザイナーと大工の争いと融和という見ている側にとってはいささかシリアスな問題に気を取られてしまうからだ。

 「家」という形あるものを作ること、それに多くの人が関わること、そして「住む」という人生に直結した題材によって、より多くの人に実感できるように味付けしているが、ここで描かれるデザイナーと大工の衝突に代表されることはあらゆる業界のあらゆる場面で起こっていることだろう。特に自分の仕事にこだわりや自信を持っている人なら自分に置き換えて観てしまうこともあるかもしれない。そうした人と人とが一緒に仕事をしていく中で苦労しながら何かを作り上げていくことは普遍性の高いモチーフだと思われる。ただ、そこで誰しもの涙を誘う感動までの盛り上げには足りなかったように感じられた。それはちょうどコメディであることのプライドから過剰な盛り上げを避けた照れ隠しのようにも思えた。

 また、ドリームチームの一人一人の魅力が引き出せていないのが残念。登場時に期待させただけに一人ワンエピソードくらい欲しかった(時間が足りなくなるだろうけど)。

 これまで三谷幸喜の(関わった)作品といえばシチュエーションコメディと呼ばれる閉ざされた空間で起きる出来事を面白可笑しく描くことを特徴としていた。映画では『12人の優しい日本人』『ラジオの時間』、TVドラマでは「やっぱり猫が好き」「子供欲しいね」など(舞台は多いので割愛)。その意味でもこの作品はオーソドックスであり、三谷幸喜ならではといった面が少ないように感じられた。特に監督デビュー作の『ラジオの時間』では映画の色んなテクニックを本当に楽しんで使っている印象があったけれど(それでも作品として成立しているかどうかが水野晴郎との違い)、今回はそれも作品の道具として使いこなしてしまっている。

 あまりプラス評価にならなくなってしまったけれど、作品全体はとても良いと思う。ただ、三谷幸喜という名前はそれだけで何かを期待させてしまう状況が厳然としてあって、それに対するコメントはやっぱり必要だと思うのだ。そんな人材は滅多にいないのだから。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] peacefullife[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。