コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] クイルズ(2000/米)

羽の生えたペン(クイルズ)から生まれたサド侯爵の魂は壁を超え世に飛びわたる。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







軟禁状態のサド公爵。

本作では殆ど描かれていませんでしたが、サド公爵がこのようになった経緯−とりわけ前の指導者・有力者がギロチンにかけられる恐怖のフランス革命前後を彼が生き抜いた強運−は、彼の世にも有名な習性と無縁ではないだろう。本作でナポレオンが彼の処遇を判断するシーンが挿入されていたように、革命後まで生き続けた彼の存在自体が、彼の思想が世界に名だたる恐怖のフランス「自由」革命をも凌駕していた証と捉えることができるだろう。

なぜ、サドが軟禁されたか?

解釈の一例として、三島由紀夫は戯曲「サド公爵夫人」に面白く描いている。詳しくはそちらを読んでいただきたいが(短編ものです)、この戯曲ではサド公爵が脇役で、夫人を主役としている点が実に面白い。この戯曲をひとことで言うと、夫の異常なほど自由な習癖に嫉妬した妻の物語で、サド公爵は、(世間にでも、世間体を気にした妻にでもなく、)嫉妬した妻によって軟禁された(しかも妻は自分の嫉妬に気づいていない)、というお話しなのです。

本作(クイルズ)で登場したサド公爵夫人は、マイケル・ケイン演ずる協会の支配人にまんまと大金を騙し取られたように、サド公爵のためには金を惜しまない夫の擁護者であるとともに、夫の自由の剥奪者としての一面も見え隠れしてました。

そんなサド公爵の文章による表現は、自由を奪われれば奪われるほど、自由の剥奪者をあざ笑うかのように、逞しく変貌する。こう観ると、サド公爵はフランス革命、すなわち自由の申し子ともいえる気がする。

この難役を見事にこなしたジェフリー・ラッシュ。素晴らしい役者だ。

---

<<余談>>

実際のサド公爵夫人は牢獄のサドを支え続けたそうですが、晩年サドが釈放されたとたんに離婚してしまったそうです。それが専門家の間でも謎だとか。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ボイス母[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。