[コメント] 脱出(1972/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
アメリカの詩人ジェームズ=ディッキーの長編小説をディッキー自身が脚色し、ブアマン監督が映画化(保安官役でディッキー本人も登場している)。1973年全米興行成績1位。
映画を観るモチベーションというのは人それぞれだと思う。派手なアクション作品を観るのも、芸術的な作品を観るのも、それぞれの好みに他ならないのだが、映画を観たい!と言うのは、やはり感情を揺さぶれるものを観たい!と言うのがやはりモチベーションの最たるものではないかと思う。
ただ、そうすると、感情を揺さぶられる。というのは個人的なものになっていくし、時代にも左右されていく。
実際、本作は現代の目で観る限り、物語は単純な上に、アクションと言っても全部騙し討ちみたいなもので、爽快感がない。あるのは絶え間ない緊張感とその後の虚脱感ばかり。
これが当時のアメリカ人にとって受け入れられたのは何故だろうか?と考えると面白い。映画を通して時代を観るというのは、なかなか楽しいもんだ。
時代を考えると、この当時は丁度ヴェトナム戦争の真っ只中にあり、厭戦気分が高まっていた丁度その時代であり、しかも戦争に出た兵士達も数多くいたはずである。戦争のPTSDに苦しめられている元兵士達の心情を考えてみると、本作の意味合いってものが見えてくる気がする。
彼らの苦しみはそのまま本作で生き残った主人公達の苦しみでもあったのでは無かろうか?
戦争に正々堂々はない。生き残るためには相手の見えない所から銃を撃って敵を殺さねばならないのだし、逆にいつどこから撃たれるか分からない。その緊張状態の中でずっと過ごすことになる。
そう言う人間から観てこそ、実は本作は分かってくるのかも知れない。彼らにとってこそ、本作は非常にリアリティが高い作品なのかも。
主人公達にとって、現地の人間は得体の知れない存在であり、そして恐ろしい存在でもある。そのような存在に対して出来ることは、やられる前にやるという先制攻撃だけ。しかし一方では、相手は人間だから、本当に殺してしまったら法的に罪に問われてしまう。
結局そうやって一線を越え、しかも自分たちが助かる道を選んでしまった彼らは、これから後、後遺症に悩まされつつずっと過ごすことになるのだろう(あるいは最後にダムから出てくる手は、彼らにとっての“救い”になったのかも知れない)。
…考えれば考えるほど鬱になりそうな気がするが、それこそがリアリティと言う奴。
映画を楽しむモチベーションとは、あるいはこうやって「俺だけじゃないんだ」と思わせる共感が得られるものであるのかもしれない。
最初に「爽快感がない」と書いたけど、川下りのシーンなどでダイナミズムは遺憾なく発揮されているので見応えは充分にあり、本作が単なる鬱に陥れるために作られたものではないことがよく分かるし、レイノルズが決してヒーローとしては描かれてないのにも、新境地への意気込みが感じられる。決して単純なヒーローを描かないのはブアマン監督らしさでもあるけど。
ちなみに本作がネッド=ビーティのデビュー作なのだが…男に犯される役とは災難だった。
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