[コメント] 逃亡地帯(1966/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
物語そのものは極めて重い内容を持つ。設定自体も一人の金持ちが町そのものを支配している閉塞感、彼のもたらした富は町に悪徳を蔓延らせ、道徳をせせら笑う人々と、人殺しをまるでゲームのように嬉々として参加する人々。と言った描写が展開する。誰も彼もがこの町にうんざりしながら出て行く気力もないという南部の町を見事に表していた。
いわゆるアメリカン・ニューシネマが開始されるのは、2年後当のペン監督による『俺たちに明日はない』の公開を待つことになるのだが、本作を観る限り、既にその時代は始まっていたのではないか?と思わされる位に過激。人間関係もややこしく、しかも終わり方も後味が悪く、観るだけでかなり疲れを覚える作品でもある。改めて、よくこんな作品がこの時代に作られたものだ。
これまで歴史の中で直視していなかったアメリカにある病理をしっかり見据えようと言う姿勢ははっきりしており、エンターテインメントの中で人間性を追求しようとするその姿勢には拍手を送りたい。
ただ、その姿勢がエンターテインメントとして機能していたか?と言うのとは別物。ブランド、レッドフォードというヒーロー性たっぷりの人物二人を主人公としていながら、二人とも全く強さが描写されておらず、町の人の暴力に翻弄されるだけに終わってしまった感じ。それでもまだブランドは『真昼の決闘』(1952)のクーパーっぽい格好良さはあるが、レッドフォードは本当に彼で良かったの?と言うくらいに見せ場がない。彼の物語に関しては、寝取られ男が未練たらしく妻の周りをうろついていたら、リンチにあって殺された。という救いのないだけの話になってしまった。ましてやフォンダに至っては単なる性悪。これだけのキャラにこれだけの役をよくも演らせたもんだ。それだけでも特筆ものか?
規制は薄らいだとはいえ、当時のハリウッドでこの物語を映画化するにはかなりの冒険であったことは確かで、流石に当時のアメリカではあまり受け入れられなかった。時代的に早すぎた作品だとは言えると思う。実際当時も“駄作”と言われたし、今観ても決して洗練されてるとは言い難い。70年代に低予算で作られたらインディペンデント映画としてかなり受け入れられたんだろうけどね…いや、だからこそ本作はハリウッド大作中のカルト作として考えるべきなのだろう。
ニューシネマ好きな人だったら絶対に観て欲しい一本。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。